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「コイツ、全力を出してないな」井上尚弥を相手にどんな対策を取るのか…元世界王者・飯田覚士が注目したカルデナスの“絶妙なディフェンス”

posted2025/05/09 18:23

 
「コイツ、全力を出してないな」井上尚弥を相手にどんな対策を取るのか…元世界王者・飯田覚士が注目したカルデナスの“絶妙なディフェンス”<Number Web> photograph by Hiroaki Finto Yamaguchi

ラスベガスで行なわれた井上尚vs.ラモン・カルデナスの一戦のポイントを元世界王者・飯田覚士氏が徹底解説した

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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Hiroaki Finto Yamaguchi

 世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥が5月4日(日本時間5日)、米ラスベガスのT-モバイル・アリーナで防衛戦を行い、挑戦者のWBA1位ラモン・カルデナスに8回45秒TKO勝ちを収めた。モンスター井上が序盤でまさかのダウンを喫しながらも、冷静に完勝した試合を元WBA世界スーパーフライ級王者の飯田覚士氏はどう見たのか? 全3回にわたって徹底解説する。<NumberWebボクシング評論/全3回の1回目/2回目へ> 

飯田覚士が目を留めた「カルデナスのディフェンス」

 あまりに濃密な一戦。

 4年ぶりとなる“モンスター”のラスベガス決戦を、WOWOW「エキサイトマッチ」の解説を務めるなど海外のボクシングにも精通する元WBA世界スーパーフライ級王者・飯田覚士氏はそのように表現した。

 5月4日(日本時間5日)、4団体統一王座世界スーパーバンタム級タイトルマッチ。王者・井上尚弥がWBA1位ラモン・カルデナスを相手に2ラウンド、よもやのダウンを奪われながらも7ラウンドにダウンを奪い返し、8ラウンドに怒涛のラッシュでTKO勝ちした展開のなかに勝負の命運を握るターニングポイントが幾度もあったという。

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 今回、Number Webの評論に際して飯田は試合を2度、観ている。ライブで観た1度目では「きっとまだ見逃している」と感じ、再度じっくり観たことによって2人のボクサーによるミクロ単位とも言える攻防を彼なりに解釈できた。紙に隙間がないほどぎっしりと書き込んだメモに飯田は目を落とした。

 開始を告げる1ラウンドのゴングが鳴り、まず飯田が目を留めたのがカルデナスのディフェンスであった。

「どんな対策を取ってくるのかなと思っていたら、いつものL字ガードのスタイルではなく、急所を隠すガードを徹底してきました。尚弥選手の武器は何と言っても踏み込んでのワンツー。踏み込みの勢いを利用するから、あのパワーが生み出されるわけです。ただ範囲は真っ直ぐに限定されるので、ガードの真ん中をしっかり狭めておく。逆に距離が近づくと、尚弥選手のフック、ボディーを警戒して(ガードの)真ん中を開き気味にしてテンプル、レバーを隠しておく。距離を測りながら閉じる、開くを絶妙にやっていましたね。

 そしてもう1つ、尚弥選手がワンツーを打ち出すと同時に、バックステップで下がるんです。避けると言うのではなく、言葉にするなら“受け流す”ですかね。ガードの上から敢えて打たせて、ダメージを極力抑えるというやり方。実はこれ、(マーロン・)タパレス選手が尚弥選手を相手にやっていたんですよ。トレーナーのジョエル・ディアスさんはおそらく、この試合を参考にして策を授けたんじゃないかなと思いましたね。これならばワンツースリーフォーと来られても下がることでまともに食らわず、かつ、どんどん打ってくれるのであれば尚弥選手にガソリンを使わせることもできますから」

王者目線では…「距離がメッチャ遠いなと」

 開閉式の固めたガードと、タパレスを参考にした受け流しというディフェンスのミッションを遂行するだけではモンスターの高い壁を乗り越えることはできない。ディフェンスは、あくまで己の得意とするパンチを打ち込むための前提条件に過ぎないこともカルデナスは理解していた。井上の強打にもひるむ素振りを見せず、前に出て突破口を見いだそうとする。

【次ページ】 井上の鼻から血が流れ…

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#井上尚弥
#ラモン・カルデナス
#飯田覚士

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