マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「ええ~っ」「大山はドラ2で獲れたのでは…?」ドラフト会場では悲鳴も…6年前、阪神はなぜ大山悠輔を1位で指名したのか?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/06/23 17:01
2016年12月、新人選手入団発表会で。阪神・金本知憲監督(当時)とポーズを撮る大山悠輔
「大山が六大学や東都にいたら、もっと大騒ぎされてましたね、間違いなく。守れるっていうのが大きいですよ、やろうと思えば、セカンドだってできるんじゃないですか。足も悪くない。右打ちであれだけ飛ばせるバッター、ほかにいませんものね。今年のドラフト候補を見渡して冷静に考えれば、貴重な存在だったのかもしれませんよね」
当時、白鴎大の黒宮監督はこう語っていた。厳しいことを言いながらも、愛弟子・大山悠輔を温かい目で見守っていたように思う。
「阪神は人気球団ですから、反響が大きいのは当然です。これから、本人が慣れていかなきゃならない部分なんでしょうけど、大山本人に“免疫”がないですから、何をやらかしても、あんまり本人がびっくりするような書き方だけはしないでくださいって、これ、誰に向かって言ったらいいのか僕にもわからないんですけど、祈るばかりですね……」
2016年10月20日のドラフト会議。大山悠輔の阪神タイガース1位指名のとき、会場では「ええっ」というどよめきが起こり、“外野”がずいぶんとうるさかった。
「送り出す者の本音としては、“2位”だったら……の思いは、正直、ありますね。ひっそりと入って、時間をかけて力をつけて、後で考えたら、獲ってよかったじゃないか……みたいな。そういう線でいってくれてもよかったかなぁ、って。いやいや、私がそんな弱気じゃいかんですね。こうなった以上は、1位指名を“勲章”と考えて、阪神タイガースというチームとしての期待、金本(知憲)監督の期待に、命をかけて応えていくことが、彼の使命だと思います。返していけばいいんです」(黒宮監督)
「大山悠輔は“2位”でいけたのでは…」への反論
「スカウトの仕事っていうのは、2つあるんですよ」
選手補強の最前線で長く働いていればこそのお話を教えてくれたのは、楽天の後関昌彦スカウト部長だった。
「1つは逸材を探すこと。もう1つは、現場からのリクエストに応えて選手を獲ってくること。この2つが揃って初めて“仕事”をしたことになるんです。たとえば、現場から“右の長距離打者”って要望が出て、じゃあ大山で……ってなった時、状況を分析すれば、2位でも獲れるって想定は立つかもしれない。でも2位で構えていて、もしよそに1位で獲られちゃったらどうするのか……スカウトとしての仕事が、何もできなかったってことになるわけですよ」
2016年のドラフト会議。投手が豊作だったのだから、繰り上げ1位(通称・外れ1位)で5球団が重複した桜美林大・佐々木千隼投手(現ロッテ)をまず「1位」で指名しておいて、大山悠輔は「2位」でいけたのではないか……当時の「世評」はもっぱらこのような論調だった。
後関氏自身も同じような体験をしているという。