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「カルデナスは狙っていたわけではない」井上尚弥“まさかのダウンシーン”に元世界王者・飯田覚士の見解「ここ最近のベストラウンドは…」

posted2025/05/09 18:24

 
「カルデナスは狙っていたわけではない」井上尚弥“まさかのダウンシーン”に元世界王者・飯田覚士の見解「ここ最近のベストラウンドは…」<Number Web> photograph by Hiroaki Finto Yamaguchi

ラスベガスで行なわれた井上尚vs.ラモン・カルデナスの一戦のポイントを元世界王者・飯田覚士氏が徹底解説した

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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Hiroaki Finto Yamaguchi

   世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥が5月4日(日本時間5日)、米ラスベガスのT-モバイル・アリーナで防衛戦を行い、挑戦者のWBA1位ラモン・カルデナスに8回45秒TKO勝ちを収めた。モンスター井上が序盤でまさかのダウンを喫しながらも、冷静に完勝した試合を元WBA世界スーパーフライ級王者の飯田覚士氏はどう見たのか? 全3回にわたって徹底解説する。<NumberWebボクシング評論/全3回の2回目/3回目へ>

まさかのダウンシーン「狙っていたわけではない」

 2ラウンド、残り16秒だった。

 距離が詰まった状態で井上尚弥の左フックをかいくぐったラモン・カルデナスは自慢の左フックをカウンターで強振する。王者の右ガードは下がったまま。まともに食らった井上はキャンバスに尻もちをつくように倒れた。

 まさかのシーンに、飯田覚士は「カルデナス選手はあのシーンを特に狙っていたわけではないと思う」との見立てだ。一体、どういうことか。

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「ロープに詰められないように逃げる相手に対し、尚弥選手は先回りするようにショートカットで距離をグッと縮めながら左フックを打ちました。ヒットするか、もしくはもう少し下がると思っていたんですかね。しかしカルデナス選手はディフェンス能力が高く、足を止めてダッキングでかわしました。イレギュラーな形で急に距離が詰まり、突っ込みすぎたことで体も開いていました」

 距離を絶妙にコントロールしてきた井上のほうからエラーを起こすとはなかなか想定しづらい。カルデナスが呼び込んだ、誘ったというニュアンスではなく、ショートカットが結果的に“悪手”となってしまった。

 だが1年前、東京ドームでルイス・ネリにダウンを喫したときと同様、絶対王者はどこまでも冷静だった。陣営に対して「大丈夫だ」とばかりに軽く右手を挙げ、レフェリーの目を見ながらダメージの回復を待ってカウント7で立ち上がった。

3ラウンドで修正「距離を取るジャブ」

 冷静になると同時に、ボクシングに対して謙虚になるのが井上尚弥というボクサーである。3ラウンドはジャブから再構築して、戦い方を変えていくことになる。

「ダウンするまでは言わばノリノリで、ジャブも右ストレートにつなげるための意識が強かった感はありました。でもこのラウンドは明らかに“距離を取るジャブ”でした。つまり肩を入れて打つので、グローブ1個分10cmくらい伸ばしている。なおかつちょっと押すというか突き放していく感じで。途端に、カルデナス選手のパンチが当たりにくくなりました。ただ、尚弥選手が凄いのは、外から見るとちゃんと攻撃的な姿勢のままなんです。ワンツーも、ボディーも、コンビネーションもしっかり打っている。(ダウンの)ダメージなんか全然ないと言わんばかりに。でも、ダメージがないわけがない。足を使ってもっとサークリングすると(ダメージが残っているんだなと)分かりやすいのですが、尚弥選手はそれをまったく感じさせないように戦う。ジャブで支配するラウンドをつくって、しっかり回復させているんです。それにプラスしてカルデナス選手にいっぱいパンチを振らせていて、軌道も全部インプットできたんじゃないですかね」

【次ページ】 ダウンからの凄まじい猛チャージ

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#井上尚弥
#ラモン・カルデナス
#飯田覚士

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