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青学大と広がる差「大迫君以来、早稲田卒の日本代表がいない」強かった“あの頃”の早稲田大を知る花田勝彦はシード落ちの母校を救えるか?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySankei Shimbun
posted2022/06/04 17:04
1993年の箱根駅伝4区、区間新を出した早稲田大の花田勝彦。早稲田はこの年、総合優勝。その花田が駅伝監督として母校に帰ってきた
このところ、トラックでは東京オリンピックの3000m障害で入賞を果たした三浦龍司(順天堂大)、10000mで世界選手権の参加標準記録を突破している田澤廉(駒澤大)など、学生のなかでも日本のトップクラスが出ており、早稲田にも好記録を持っている選手がいるものの、一線級からは水をあけられている。
また、チームの総合力を問われる駅伝でも、チームの20番手まで勝負できる青山学院大と比べると、選手層でも差がついてしまった。
花田監督は2016年まで上武大学で指導していたが、この6年間で学生長距離界も大きく変化した。
「学生長距離界は、道具の進化もあって急激な成長を遂げています。上武大を指導していた時代、基準のタイムをクリアしていた選手には『プレミアム・ブラック』と呼ばれるユニフォームを着て試合に出られるようにしていました」
その基準タイムの目安は、5000mであれば14分30秒、ハーフマラソンであれば65分台だった。しかし、今ではその基準が14分切り、63分台前半まで上がってきている。
花田監督は「学生の方が道具の進化に敏感ですし、うまく使いこなせている印象があります」としたうえで、学生たちに記録に見合った成長を遂げて欲しいという。
「早稲田にも強い選手はいます。ただ、学生界全体を見渡した時に、タイムに見合った精神的、肉体的な成長を遂げているかというと、そこが足りない気はします。たとえば、食事に気を配ったりだとか、そうした基礎的な部分が抜けていることもあって、そのままだと社会人で競技を続けるにしても、入社して1年目、2年目に壁にぶつかってしまいます。私としては記録に見合った成長、人間性を磨いていって欲しいと思っています」
苦戦する“リクルーティング”
早稲田での指導は、まだ始まったばかり。
日本選手権に出場するレベルの4年生もいれば、5000mで15分台の1年生もいる。
「ちょうど中間層がいない感じでしょうか。これからトラックシーズンを終えて、夏合宿の前に学生と話し合って、目標設定をしていきたいと思います」
会見で印象的だったのは、花田監督が決して楽観主義ではなく、学生と一緒に、現実をしっかり見つめていこうという姿勢が明快だったことだ。
「早稲田の強みは高い目標を持ち、競技に取り組めるところだと思います。一方で、学生たちは自分たちの現状をうまく把握できていないところがあり、今のままでは目標に届かないよということは話しています。その穴埋めをしていく作業が必要だと思っています」
個人、組織が強くなるためには、現状把握をしたうえで、課題、ゴールの設定を行い、そこに到達するための方法論を構築する。