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愛されたライバル、キタサンブラックとサトノダイヤモンドは天皇賞・春でいかに決着したか?「マックイーンvsテイオー」以来の名勝負の裏側
text by
石田敏徳Toshinori Ishida
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2022/04/28 11:00
ライバルとして名勝負を繰り広げたキタサンブラック(左)とサトノダイヤモンド
「もっと鍛えられる余地があり、今のこの馬ならもっと強い負荷にも耐えられる。その判断がまずあって、やり方を色々と検討して選んだのが坂路を3本というメニューでした。人間の陸上競技でも中学生の選手とオリンピック選手では練習の量も中身も全然違いますよね? それと同じことでこの馬が持っているもの、能力に見合った調教がしたかった」
鍛えて、鍛え上げてより高い壁に挑んでいく。そのポリシーからはまた別の人馬が連想される。「世紀の対決」と同じ25年前、つまり'92年の牡馬クラシックを席巻。皐月賞、ダービーと勝ち進み、無傷の三冠制覇に王手をかけた戸山為夫調教師とミホノブルボンだ。
ミホノブルボンを彷彿とさせるハードトレーニング
血統や馬体など、素材的には少し見劣る馬をハードに鍛えることで強くする。そんな理念を掲げ、人一倍のスパルタ調教に取り組んできた戸山は、光る才覚を見て取ったミホノブルボンを坂路調教で徹底的に鍛え上げた。まだコースが延長される以前で「1日3本」が古馬の標準的なメニューとされていた当時だが、ミホノブルボンは2歳時から「1日4本」のメニューを消化。ダービーの前にはさらに、「1日5本」に増やして周囲を驚かせた(さすがに馬の消耗が激しかったため、すぐ4本に戻されたが)。攻めの姿勢を貫く調教師とハードなトレーニングによく耐えて、地力を強化していった馬の構図は清水とキタサンブラックの歩みによく似ている。
ただ、理想家の一面もあってときにはオーバーワークを恐れなかった戸山に対し、清水は馬を“疲れさせすぎない”ようには気を付けているという。
「ウチのスタッフにはよく、『調教は疲れないと意味がないよ』と話をします。疲れるぐらいやって、初めてトレーニングになる。しかし、疲れさせすぎると次の練習ができなくなってしまう。だから自分なりにそれぞれ、“この馬はここまでは大丈夫”と判断しながらやっているつもりです」
“キタサンブラック仕上げ人”の証言
キタサンブラックの場合、心身ともに“大丈夫”のラインがずば抜けて高かったわけだが、高度を見抜いたトレーナーの眼力と感性も見逃せない。その能力は清水に出会ったことで、ここまで大きく開花したようにも思える。
ともあれ、こうして臨んだ大阪杯は堂々の横綱相撲で完勝。その後、中3週の間隔で挑む天皇賞に向けては、「大阪杯の状態をキープする」ことに主眼を置いて調整メニューを組んだ。
「大阪杯のときはいつもの休み明けより馬のテンションが高くてちょっと心配しましたが、一度使ってからは落ち着いて、いい感じでレースに向かっていけました。昨年に比べると能力の円グラフが全体的に大きくなった感じで、王者の風格が出てきた気がします」
追い切りを任されているキタサンブラックの仕上げ人、黒岩悠騎手はそう証言する。
《後編に続く》