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愛されたライバル、キタサンブラックとサトノダイヤモンドは天皇賞・春でいかに決着したか?「マックイーンvsテイオー」以来の名勝負の裏側
posted2022/04/28 11:00
text by
石田敏徳Toshinori Ishida
photograph by
BUNGEISHUNJU
春の天皇賞の枠順が発表された木曜日。池江泰郎はスポーツニッポンに連載しているコラムの内容を担当記者と打ち合わせ、本命(◎)はサトノダイヤモンド、対抗(○)がキタサンブラックという自身の予想と買い目を伝えた。
ディープインパクトをはじめとする数々の名馬を手掛けた調教師生活を引退(2011年2月末日付)した後、泰郎は「サトノ」の冠名で知られる里見治オーナーに依頼され、馬選びのアドバイザーに就任した。以降の彼が、ダイヤの原石と石ころが混在している当歳馬、1歳馬を毎年、何百頭と見て回り、“これは”と感じた馬を里見に勧める役割を担ってきたことはよく知られている。'11年のセレクトセール(日本最大規模の競走馬のせり市)では早速、当歳市場でサトノアラジン、1歳市場でサトノノブレスと、後に重賞の舞台でバリバリ活躍する2頭の若駒を抜擢。泰郎が推奨し、里見が購入を決めた馬からはその後も数々の活躍馬が出現してきた。
そんな泰郎が'13年のセレクトセールにおいて、息子の泰寿(調教師)とともに「この馬が絶対に一番」と強力にプッシュしたディープインパクト産駒がサトノダイヤモンドだった。個人的な心情だけで予想の印をつけるなら、◎どころか花丸でも足りない馬なのだ。しかし今回の天皇賞。客観的な立場でサトノダイヤモンドとキタサンブラックを比較すれば、2頭はまさに甲乙つけがたい存在と思えた。
「◎を2つ、というわけにはいかないので本命・対抗の序列はつけました。しかし、実力と戦歴と人気は全く互角。2種類の馬券の買い目で、その意図をくんでくだされば幸いです」
日曜日の紙面に掲載されたコラムの行間には、サトノダイヤモンドを応援する気持ちと、自分の予想を参考にしてくれる読者に対する責任感の間で揺れ動く、彼の複雑な心境がにじみ出ていた。
安堵したキタサン陣営、顔をしかめたサトノ陣営
キタサンブラックの清水久詞調教師は栗東トレセンの出馬投票室で2枠3番という枠順を知った。引けるに越したことはない内枠。率直に「ラッキー」と感じたし、改めて他馬の枠順を内から確認していくと安堵の思いが広がった。誰もが逃げると予想しているヤマカツライデンは大外の8枠17番に入っている。これなら序盤、他馬の動きにつられ、自分のペースを乱してしまう危険性は少ない。その意味でも“いい枠”だったわけである。
一方、サトノダイヤモンドの池江泰寿調教師(以下、池江)は枠順を知って思わず顔をしかめた。外枠というより、キタサンブラックと離れた枠(8枠15番)を引いたことが彼にしてみれば痛手だった。
「キタサンが6、7枠あたりに入っていたら、“(8枠でも)よし、いい枠だ”と思えるんです。道中はあの馬から2馬身差以内の位置につけて、あわよくばプレッシャーをかけながら進む。そんなレースをしたいと思っていたし、それができるのはダイヤモンドとクリストフ(・ルメール騎手)だけですから」