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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「青学生にとって箱根駅伝は五輪と同じ」「彼らとは“筋肉の名前”で会話ができる」トレーナー・中野ジェームズ修一が語る“青学イズム”の真髄
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byNanae Suzuki
posted2022/03/16 17:03
10区を区間新記録で駆け抜けた青山学院大学3年生の中倉啓敦。同選手も早くから中野ジェームズ修一氏が考案した新メニューに取り組んでいた
「想定外」が頻発する学生スポーツならではの充実感
初めての箱根駅伝で中野に衝撃を与えたのは、走る前のアップとして、ほとんどの大学が静的ストレッチを行っていたことだった。ゆっくりと筋肉を伸ばして行う静的ストレッチは、確かに筋肉をほぐす効果はあるが、たいていは運動後に実施されるべきストレッチだ。これから走り出すのであれば、身体を動かし、筋温を上げ、可動域をひろげる動的ストレッチを実施すべきだというのが中野の持論だった。
「箱根駅伝といえども、そういう世界なのかと感じました。しかし数年経って、今年は逆に静的ストレッチを行っているのは1校だけだった。私の影響というわけではないでしょうが、そんなふうに現場が変わったのは嬉しかったですね」
中野が実践した青学でのトレーニングメソッドは、著書の『青トレ』(徳間書店)を介して駅伝界に大きな影響を与えている。
「合宿地などで、中学生や高校生がまさに『青トレ』の順番でアップをしているのを見ると、涙が出るほど嬉しいです。『それを考えたのは僕だよ!』と言って手を振りたいぐらいに(笑)」
トレーナーは数多くのクライアントをその手で触り、情報を得る。クライアントの数だけキャリアが積み重なっているとも言える。中野にとって、青学での仕事はどんな影響を与えているのだろうか。
「私の特長でもあるんですが、手で選手の身体を覚えられるんです。顔と名前を覚えるのは苦手なんですが(笑)、押したときの筋肉の反発や厚さなどを手が覚えている。青学では毎週、報告が届きます。毎日どんなトレーニングをし、何キロ走り、どういうケアをしたのかなどが明記されています。それを読むと、『今日触ったらこういう感触で、反発はこれくらいかな』と想像できるんですよ。
でも、実際に触って想像と大きくかけ離れているときがあるんです。『昨日走っているのに、こんなに緩んでいるわけがない』とか。『なにかあったの?』と聞くと、報告のないケアを行っていたりするんです。それを知らないと、『指示した自主トレメニューの強度が間違っていたのか』と思って、変更することになる。自主練として長い距離を走ったりだとか、学生は想定外のことが多くて、毎回毎回悩むところなんです」
そう話す中野の声はどこか楽しそうだ。
「僕がアスリートを見る場合、多くが1対1の関係です。オリンピックではひとりの選手に集中しています。50人近くの選手を見るというのは、本当に苦悩が多いです(笑)。イヤではないんですよ。昨日も3件くらい選手から問い合わせがありました。ひとつのことをクリアしても、また新しい課題が出てくるので、どんどん挑戦させられる。だから非常に成長するんですけど、苦しめられてもいます(笑)」