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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「青学生にとって箱根駅伝は五輪と同じ」「彼らとは“筋肉の名前”で会話ができる」トレーナー・中野ジェームズ修一が語る“青学イズム”の真髄
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byNanae Suzuki
posted2022/03/16 17:03
10区を区間新記録で駆け抜けた青山学院大学3年生の中倉啓敦。同選手も早くから中野ジェームズ修一氏が考案した新メニューに取り組んでいた
青学大の方針は「一種のカルチャーショック」
原晋が青学の監督に就任したのが2004年。5年後の2009年、33年ぶりの箱根駅伝出場を果たし、それ以降の数年間は、シード権を獲得しながらも優勝はできなかった。そんな現状の改善のため、原監督は「フィジカルトレーニングを専門家に任せたい」と中野を招聘した。
「選手たち自身に考えさせる原監督の方針もあって、トレーニングについて詳細な説明を求められました。体幹とはどの筋肉を指し、そこを鍛えればどのように走りが安定するのか、負荷をかけるにはどんな角度で持ち上げればいいのかなど、学生が知り、考え、選択できるようにする必要があったのです。これまで見てきたトップアスリートのなかには『中野さんを信頼しているから、トレーニングで頭を使わせないで』というタイプも多かったので、一種のカルチャーショックでしたね」
解剖図や筋肉図を用いて説明したあと、グループワークを実施する。
「たとえば、ひとつのメニューに対しても『そんなふうに持ち上げると、筋肉の方向が逆になるから』とか、『それでは腰を痛めるよ』と説明をしたうえで、正しい方法を伝えていくには2時間くらい必要になります。効率は悪いのかもしれないけれど、学生が身体に興味を持ってくれる喜びは大きいし、こういう時間が大学スポーツには必要なんだと実感しました。青学生は“筋肉の名前”で僕と会話ができますから(笑)。彼らほど筋肉の名称を知っているアスリートは少ないです」
そんな中野の真摯な姿勢や緻密な講義は、学生たちの心も動かしていた。
「僕が来るまでは、学生たちが考えたメニューでトレーニングを行ってきたけれど、それを見たときに『残念ながらそのメニューは間違っている。順番も違う』と伝えました。体幹トレーニングと言いながらもアウターユニットを使ってばかりで、インナーユニットがまったく使われていなかったからです。『こうすべきだ』と説明をしましたが、半分以上の学生が反発しました。
けれど、当時のキャプテンだった藤川拓也(現・中国電力)が中心となって、『とりあえずやってみよう。それから判断すればいい』という空気を作ってくれたんです。私は提案することはできるけれど、チームの雰囲気を作っているのは原監督と学生たち自身。いつも『彼らの情熱に助けられているな』と感じています」