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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「青学生にとって箱根駅伝は五輪と同じ」「彼らとは“筋肉の名前”で会話ができる」トレーナー・中野ジェームズ修一が語る“青学イズム”の真髄
posted2022/03/16 17:03
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph by
Nanae Suzuki
2022年1月3日。第98回箱根駅伝で、青山学院大学は大会新記録での総合優勝を果たした。3区以降は一度も先頭を譲らない圧勝だった。
2014年に青学のフィジカルトレーナーに就任し、強豪校の礎を築いてきた中野ジェームズ修一は、1年間にわたる苦闘の成果を噛みしめていた。同時に大きな安堵感にも包まれることになる。
NIKEの「ヴェイパーフライ」シリーズをはじめとした厚底シューズ対策として、大腿四頭筋や臀筋群といったアウターマッスルを鍛えることに舵を切った。熟考を重ねて練り上げたメニュー構成だったが、必ず好結果が生まれるという確証はもちろんなかった。不安に苛まれながらも、自身の理論と思考、そして技術を武器に重ねてきた時間が、優勝という形で結実した。
「僕は青学を勝たせるために仕事を任されています。それなのに、前回大会は4位という成績だった。プロとして結果を求められているのだから、優勝できなければ仕事を続けられません。自分なりに研究をし、厚底シューズの機能を最大限に生かし、かつ負担のないよう身体を作り上げるトレーニングメニューの構成を整えました。しかし、それが本当に正しいのかは、終わってみなければわからない。学生を前にして『大丈夫だ』と言いながらも、不安がないわけではありませんでした」
「毎週、悪夢を見ていました」トレーナーの苦悩
大きなプレッシャーを背負うのはプロとしての矜持の表れでもあった。過去、多くのアスリートをオリンピックなどの大舞台へと送り出した中野にとっても、今回の挑戦は特別だったのかもしれない。
「毎週、悪夢を見ていましたね。青学が箱根のシード権を落とす。中野の責任だと追及される……。夢のなかでは、故障者が出ているのに『これで行く』と決めたことを貫き通し、『間違っていないんだ』と自分を正当化している僕がいたり。そんな夢を毎週見ていたら、記録は良くなっているのに不安があるんです。『やっぱり元に戻したほうがいいんじゃないか』と悩み続けていました」