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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「日本人と一緒で大丈夫?」差別を乗り越え、中国代表シャオミンを金メダルに導いたスノーボードコーチ・佐藤康弘の“信念”とは
posted2022/03/17 11:02
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
KYODO
2月20日、北京五輪の閉会式。国家体育場のフィールドに戦い終えた母国の選手団が姿を現すと場内から大きな歓声が上がった。
スー・イーミン(Su Yiming、蘇翊鳴、通称シャオミン)がいて、その隣にはアイリーン・グー(Eileen Gu、谷愛陵)がいる。どちらも今回の五輪で金メダルを獲得した10代のニュースター。中国選手団の最前列。そこは金メダリストだけに許された特別なポジションだったが、今大会の顔とも言える彼らと並んで日本人の佐藤康弘がいた。
10年前、ロンドン五輪の開会式ではボランティアがインド選手団にこっそり紛れ込んで行進したことがあったが、もちろんそうした類の話ではない。シャオミンを指導してきた佐藤は中国の関係者から「必ず前に来るように」とお達しを受けていたのだ。
習近平の威信を懸けた国家事業としてのオリンピック。そのフィナーレの中心に、スノーボード界隈を除けば彼の母国でも知る人の少ない痩身の日本人が立っている。そのことが佐藤の成し遂げたものの大きさを示していた。
「ここに至るまではすごく大変だったけど、なんとかうまくいきました。中国国内での反響が物凄く大きくて、良い反応だった。最前列に並ばせてもらえたのは、そうした要因もあったんだと思います」
佐藤は今大会に出場した日本代表の鬼塚雅や大塚健、岩渕麗楽も指導し、スノーボード界で広く名が知られた名コーチだ。
日本国内に留まらず、中国の選手も指導し、教え子であるシャオミンは北京五輪が生んだスーパースターの1人となった。
中国でも支持される国を超えた師弟関係
まず男子スロープスタイルで銀メダルに輝き、中国にスノーボード競技で初のメダルをもたらし、ビッグエアでは金メダルを獲得した。幼少期から天才少年として取り上げられ、子役経験まで持つ17歳(当時)は一躍スターダムにのし上がり、彼を世界のトップに引き上げた佐藤との国の垣根を越えた師弟関係も大いにクローズアップされた。佐藤にも中国メディアの取材が殺到し、大会期間中に開設した中国版ツイッター「 微博(Weibo) 」のアカウントには、あっという間に10万人近いフォロワーがついた。
日本以上に中国で知られる存在となった佐藤は、競技終了後すぐに帰国するはずが、滞在を延長して祝勝会や式典など各種行事に参加し、そして閉会式にも“主役”のポジションで出席することになったのだった。
ほんの数年前まで、いや、大会直前であっても、とても考えられない急展開だった。