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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「日本人と一緒で大丈夫?」差別を乗り越え、中国代表シャオミンを金メダルに導いたスノーボードコーチ・佐藤康弘の“信念”とは
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKYODO
posted2022/03/17 11:02
ビッグエアで金、スロープスタイルで銀という快挙を成し遂げた佐藤氏とシャオミン
スロープスタイルが終わった後、佐藤はシャオミンの銀メダル獲得に感激しつつも、大塚の滑りが気になっていた。3回とも最後のエアで、同じ技にトライして転倒。「あれはお前の本来の姿じゃない。必ず表彰台に上がってほしいから、気づいたことは伝えていくからな」とじっくりと話し合った。
その甲斐もあってか、1週間後のビッグエアの予選で大塚は本来の実力を発揮して2位で決勝に進出した。佐藤にとっては喜ばしい出来事。だが、それはシャオミンの金メダル獲得というミッションのハードルを自ら高くすることでもあった。
佐藤を救ったシャオミンの謙虚さ
「本当に矛盾してるんだけど、ごめんな」
その日の夜、佐藤はそう言って選手村でシャオミンに詫びた。
「健がベストのパフォーマンスをしてきたら、必ず金メダル争いに加わってくる。それでも手持ちの技を全てクオリティ高くぶつければ、いい勝負ができるだろう。わざわざ難しい状況を作り出すことにはなっちゃったんだけど……」
シャオミンの反応は予想外のものだった。
「ヤッさん、大丈夫ですよ。僕が上手になったのは(憧れてきた)健のおかげでもあるんだから」
教え子のそんな言葉を聞いて、佐藤は思わず泣けてきたという。自国開催の金メダル候補という極限のプレッシャーを背負いながらも、まだ謙虚さを失わないその姿勢に感動したのだ。
「だって金メダルを獲ったら、とんでもないことになると本人もわかっているはずなんですよ。しかもスロープスタイルからビッグエアを迎える流れが、ものすごくプレッシャーのある展開だった。あの時のミスから始まった問題で、我々にはもう金メダルを獲るしかないという使命感まで生まれていたんです」
佐藤の言う「ミス」とは彼らのミスではない。さまざまな競技で話題となった審判に関わる問題が、男子スロープスタイルの決勝でも起きていた。その余波が彼らを苦しめていたのだった。
<後編へ続く>