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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「日本人と一緒で大丈夫?」差別を乗り越え、中国代表シャオミンを金メダルに導いたスノーボードコーチ・佐藤康弘の“信念”とは
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKYODO
posted2022/03/17 11:02
ビッグエアで金、スロープスタイルで銀という快挙を成し遂げた佐藤氏とシャオミン
日本でもっともありふれた名字でさえも思わぬ火種になり得る。佐藤が指導者としてやってきたのは、選手を教えること以前にそんな難しさを孕んだ世界だった。
日本国内でも中国の代表チームを教えることに最初から100%の理解を得られたかというと、必ずしもそうではなかった。
「佐藤さん、それは非国民だよ」
ジャンプ練習施設などを経営する佐藤は、取引銀行の支店長から会うたびに言われた。これは2人の親しい関係があるからこそのジョークでもあったが、指導していた選手たちの親からは「もうヤッさんに見てもらえないんですか?」「忙しくなっちゃうんですか?」と危惧する声もあったという。
そんなとき、佐藤はこう伝えて納得してもらった。
「中国でスノーボード人口が増えてスノー産業が発展するということは、のちのち皆さんにも必ずメリットがあると思います。だからそこだけは許して下さい」
「中立でいる」という選択
とはいえ、日中の狭間で揺れ続けていたのは他ならぬ佐藤自身だった。
シャオミンと女子ハーフパイプで5位となった栄格のプライベートコーチを務めながら中国代表のヘッドコーチ格として動く。一方で鬼塚、大塚、岩渕ら幼少期から見てきた日本代表選手たちのことも気になった。
「やっぱりみんな子供の時から面倒を見ているから、シャオミンたちも含めて自分を頼ってくれる選手がベストのパフォーマンスをしてくれることが目標だったんです。非常に難しい選択だったけど、もうできる限り真ん中の立場にいようと決めていました」
普段のW杯でもそうしていたように、今回の五輪でも公開練習のときにはCHINAと書かれたウエアを着たまま日本代表にアドバイスを送った。本番ではさすがに上着を着替えたものの、必要であればスタートの時も彼らの横に立って最後にアドバイスを送って背中を押した。
国別対抗の趣きが強い五輪において、そうした横断的なやり方というのはかなり珍しい。そこには中国側の理解があり、日本の柔軟な姿勢があり、何よりも選手たちの理解があった。特にシャオミンは佐藤の他の選手への思いも全て分かった上で、「それでもヤッさんが必要なのでお願いします」と言ってくれたという。
そんなシャオミンの姿勢をよく表す出来事が五輪期間中にもあった。