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オリンピックPRESSBACK NUMBER
“ミスジャッジ”やSNS炎上に追い込まれても中国スノーボード界史上初の快挙…佐藤康弘コーチを悩ませた“NOと言えない中国人”問題
posted2022/03/17 11:03
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Yasuhiro Sato
「シャオミンこそ真の王者だ!」
騒動の発端となったのはSNSだった。
スキージャンプなどさまざまな競技で判定を巡って議論が起きた今大会。中国国内が一番沸騰したのは、スロープスタイル男子で金メダルを獲得したマックス・パロット(カナダ)がボードを掴み損ねていたのが見逃されたという誤審騒動だった。欧米のインフルエンサーが指摘し、ジャッジのミスを糾弾。審判団がそれを認めて苦しい弁明をするに至るが、シャオミンは銀メダルのまま。批判の声は中国国内にも大きく拡大していった。
シャオミンを指導する佐藤康弘によれば、中国ではSNSでもその話題がトップランキングに入り、次第に誹謗中傷も散見されるような状況まで悪化していったという。
ジャッジも含めて1つのスノーボードコミュニティを形成する仲間。歯止めをかけられるのは自分たちしかいない。というのが、佐藤とシャオミンの考えだった。
スノーボードのカルチャーを信じて
佐藤は急遽Weiboにアカウントを開設して、中国のファンにメッセージを伝えることにした。
《スノーボードというカルチャーはみんなで作り上げているものであります。このコミュニティーで活躍する人はみんなファミリーです。時として人間はミスをします、当たり前のことです》《これ以上はジャッジの方々への批判を控えていただけたらなと思います》
さらに審判たちへの感謝、Xゲーム優勝8回で平昌五輪後には悪性リンパ腫を克服したパロットへの賛辞などを綴った長文のメッセージ。それが潔しと思われたのか、美しい態度と捉えられたのか、どうなのかは分からない。ただ、その真摯な姿勢と説明は一定の理解を得た。
「中国のみなさんに僕たちのやっていることをすごくリスペクトしてもらえる流れができたんです」
と佐藤は感じていた。そして、その代わりに余計なプレッシャーも抱え込むことになった。
「そうした流れからのビッグエアだったので、もう金メダルしかないと追い込まれました。でないと、またミスジャッジの話がフォーカスされてしまうし、ハッピーエンドにもならない。中国の人たちがせっかくスノーボードに対して『カッコいい』『面白い』という好印象を抱いてくれているのに、ミスジャッジによるネガティブなイメージを残したくない。あのパロットも叩かれる。僕自身も『本当なら金メダルだったのに』と悔やむようなことは絶対に嫌でしたから。これは大変なことになったと2人で話していました」