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高木美帆に勝ったアスリート、エリン・ジャクソン(29)とは何者か? 黒人女性初のスピードスケート女王が誕生するまで
posted2022/03/14 11:10
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
平昌五輪で小平奈緒が金、北京五輪で高木美帆が銀を獲得し、すっかり日本の得意種目となっているスピードスケート女子500mに新女王が誕生した。
北京五輪でこの種目を制したのは29歳のエリン・ジャクソン(米国)。黒人女性として初めて冬季五輪のスピードスケートで金メダルを獲得しただけでなく、世界選手権で表彰台に上がった経験のあるインラインスケートから転向し、わずか5年目で世界一になったことで、大きな話題を呼んだ。
2月13日、国家速滑館で行われた試合は波乱含みでレースが進行した。中距離を主戦場とする高木が15組中の第4組で滑り、平昌五輪の銀メダリストのタイムを上回る37秒12の好記録をマーク。短距離を専門とする強豪たちに重圧を与える。
高木を上回る選手がなかなか現れず、第13組の小平はスタートでミスをしてまさかの17位。ここで登場したのが第14組のジャクソンだった。
「高木さんは速かったけど、なんとか勝とうとした」と集中してスタートすると、最初の100mを全体2位の10秒33で通過。その後は下半身のバネを生かして加速し、最後は高木のタイムを0秒08上回る37秒04でフィニッシュした。
「金メダルという結果には満足しているわ」
米国フロリダ州生まれ。子供の頃はローラースケートにいそしみ、その後はインラインスケート、そして2017年にスピードスケートに転向。陸と氷の違いをものともせず、わずか5カ月で平昌五輪に出場し、24位という結果を残した。
今季は才能が一気に開花。昨年11月にW杯初優勝を飾ってからトントン拍子に勝利を重ね、通算4勝を挙げた。ところが、今年1月にあった米国の五輪代表選考会で3位になり、2枠の代表権の獲得に失敗。同郷でインラインスケートチーム時代からの仲間であるブリタニー・ボウが500mの出場権をジャクソンに譲ったことで五輪切符を手に入れた。ボウの決断がなければ生まれなかったかもしれない金メダルだった。
「1年前は想像もしていなかった。まだ氷に慣れていない感じもあるけれど、金メダルという結果には満足しているわ。いつかローラースケートと同じくらい氷の上の居心地が良くなるといいなと思う」
日本勢にも大いに刺激を与える好敵手の誕生だった。