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プロ野球スカウトの本音「社会人3年目~、なぜドラフトで指名しづらい?」ドラ5から逆転した“あの選手”、他球団が指名しなかった事情
posted2022/03/14 17:03
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
KYODO
昨年、オリックスの4番打者として25年ぶりのパ・リーグ制覇を牽引した杉本裕太郎外野手。
徳島商業高から青山学院大、JR西日本で2年プレーして、2015年のドラフト会議でオリックスに指名されたのは、なんと「10位」。杉本選手の後に指名されたのは、西武10位・松本直晃(四国リーグ・香川)ただ1人だった。
統計的に、ドラフト上位で指名された選手たちが一軍メンバーを占める確率が圧倒的だといわれている。それでも、昨シーズンの杉本選手のように、下位指名でもチームの主軸を担って活躍中の選手が何人もいる。
帝京大時代の青柳投手、忘れられないシーン
最初にパッと頭に浮かぶのが、昨シーズン、セ・リーグ最多勝の13勝(6敗)を挙げた阪神・青柳晃洋(帝京大出身)だ。
サイドハンドからのアベレージ140キロ前半の速球……あのしなやかな腕の振りなら、打者はリリースのタイミングをつかむのも難しく、その「体感スピード」は150キロ近くに及ぶはず。
ホップ成分の強い球質だから、捉えた!と思っても、ボールの高低を間違えてファールになる確率が高いので、ダブルのアドバンテージだろう。スライダーとシンカーがホームベースの両サイドに沈む日は、手がつけられない。
青柳投手の帝京大時代で、忘れられない場面がある。
4年生の秋……もうまもなくドラフト会議という時期だったと思う。
同じく4年生で、すでに150キロ前後の剛速球で「学生ジャパン」にも選ばれていたエース・西村天裕投手(NTT東日本→現・日本ハム)が、試合途中に左ヒザ前十字じん帯損傷の大ケガを負い、降板することになった。
その時、ダグアウトから飛び出して、キャッチボールを始めた青柳投手の勢いのよさといったらなかった。
いきなりビュンビュン投げ始めたそのボールが強烈だったから、最初にグラブで相手をしていた選手がギブアップして、ミットの捕手と代わってもらったほどの「熱球」だった。
緊急登板のリリーフで、存在感を見せた青柳投手。
スタンドで観戦していた阪神スカウト陣が、階段を降りながら、ちょっと離れた席の他球団のスカウトに、右腕を軽く横に振ってみせていた。
「サイドのほうがいいな……」
無言のメッセージを投げたように見えた。
他球団スカウト「青柳は損をしていた」
しばらくして、帝京大・青柳投手は2015年のドラフト会議で、その阪神から5位指名を受けることになる。