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プロ野球スカウトの本音「社会人3年目~、なぜドラフトで指名しづらい?」ドラ5から逆転した“あの選手”、他球団が指名しなかった事情
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2022/03/14 17:03
阪神・糸原健斗内野手。明治大卒業後、ENEOSで活躍。2016年ドラフト5位指名で阪神に入団
2017年、2020年……大きな故障を乗り越えて、その間もコンスタントに実績を積み重ねてきた糸原選手。一軍になくてはならない存在になりつつある。こちらもある他球団スカウトの証言だ。
「ドラフト上位のほうは、どこの球団も、エース級のピッチャーかクリーンアップやリードオフマンが期待できるバッター……つまり、チームの“主役”を張れるような人材を取りたがるので、糸原のような脇役タイプっていうか、ちょっと小柄でいろんなことができる選手の指名順は、後ろのほうになりがちなんですけど……」
けど……って、けどなんなのか、訊いてみたら、スカウトの意外な本音が出てきた。
「僕なら、リストに挙げなかったでしょうね。だって、明治の野球部出てて、ENEOSでしょ。人間もしっかりしてるし、ガッツもあるし。選手上がっても野球部で指導者になって、真面目に勤めてれば、絶対つぶれない大会社で部長ぐらいなれるんじゃないですか、彼なら。そんな人を、無理にプロに引っ張らなくてもいいでしょ」
スカウトの方たちの話を総合すると、大学卒の社会人選手に対する興味と関心はおおむね「2年目」までで、3年目となると、ドラフト対象としての興味は急激に薄くなるという(※糸原選手はJX-ENEOS2年目に指名されている)。
「理由はいくつかあるんです。社会人3年目ともなると、チームや会社の環境にすっかり慣れてしまって、二軍ズレじゃないけど、社会人ズレっていうんですか……もうこのままでいいかなって意識になりがちになる。これが大きいです。なんとしてもプロに!っていうトンガったものがなくなってくるっていうんです。学生時代の同僚で社会人に進んだのは、口を揃えてそう言いますね。スカウトの目から見て、フレッシュな感じがなくなって見えるのも当然なのかもしれないですね。フレッシュさって、つまり、上昇志向のことですから」
「ドラフトの指名順位と実力は必ずしもリンクしない」
その「社会人3年目」で変わったのが、ホンダ鈴鹿から楽天入りした瀧中暸太投手だ。
龍谷大当時、いや、その前の滋賀・高島高の頃から剛腕としてプロから注目されていた瀧中投手だったが、好調時は145キロ前後をマークする一方で、調子の波が激しかったり、スピード本位でコントロールがアバウトだったのが災いして、魅力的なパワーピッチャーなのに、実戦で打ち込まれることがあって、ベンチの監督さんにとっては、使いにくい投手だった。