炎の一筆入魂BACK NUMBER
栗林良吏「マイナス思考でけっこう気にしちゃうタイプ」昨季新人王の広島の守護神は“誰かのために戦う”から強くなる
posted2022/03/14 17:02
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
KYODO
オープン戦で失点したことが注目される投手はなかなかいない。広島の栗林良吏は3月5日、西武とのオープン戦で外崎修汰にソロを浴びて1失点した。プロ入り後初めてのマツダスタジアムでの失点だったそうだ。それだけの成績とインパクトを、1年目の昨季に残した。
新人ながら開幕から抑えを務め、53試合に登板して新人歴代最多タイの37セーブを記録。セーブシチュエーションでの失敗がなく、防御率は驚異の0点台(0.86)だった。新人王を獲得しただけでなく、東京五輪侍ジャパンの抑えとして胴上げ投手となり、金メダル獲得に貢献した。
2年目の今季は、快調に飛ばして駆け抜けた1年目のように順風満帆にはいかないかもしれない。比較対象が昨季の栗林自身となるのだから、越えなければいけない壁は高い。オープン戦での失点がそうだったように、多少のつまずきでも「2年目のジンクス」という言葉が湧き出てくる。もしかしたら今年1年、その言葉と向き合わないといけないのかもしれない。
強心臓の持ち主だから大丈夫だろうと思われがちだが、本人は意外にも「マイナス思考です」と自認する。周囲の声も「けっこう気にしちゃう」タイプだという。
まず最悪の結果を想定
1年目の姿からとてもマイナス思考とは思えないのは、そんな自分自身を受け入れられた上でマウンドに上がっているからだろう。全体練習前の入念なウォーミングアップやブルペンでの細かなルーティンもマウンドでの不安を消すためであり、登板時の後ろ盾となる。楽観することもないが、悲観しすぎることもない。過去に自分が良い結果を出していても不安を感じ、最悪の結果を予想して、そうならないよう行動する、という防衛的悲観主義なのだ。
以前、登板時の心構えについて聞いた際、「1点差の場合、ホームラン以外はとりあえずOKと思ってマウンドに上がります」と言っていた。まずは最悪の結果=ホームランを避けることに意識を向ける。たとえ二塁打や三塁打を打たれても「あとを抑えれば勝つ確率がある」と捉えられ、自分を追い込まないで済む。
だからこそ、局面で大胆になれる。
「自分の中では開き直ることが得意なのかなと思う。ピンチになったとき、コース、コースじゃなくて、真ん中でファウルを取ろうと、開き直れた。ビビって投げていたら、もっと点を取られて負けていたかもしれない」
オフに習得を試みたツーシームの試投をキャンプ中に中断したのも、うなずける。先発投手であれば、たとえ完成度が低い新球でも状況やカウントによって試すことはできるが、1球が勝敗の行方を決める抑えでは、試す機会はほとんどない。持ち球に自信を持てなければ、局面で開き直ることはできない。