マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
プロ野球スカウトの本音「社会人3年目~、なぜドラフトで指名しづらい?」ドラ5から逆転した“あの選手”、他球団が指名しなかった事情
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2022/03/14 17:03
阪神・糸原健斗内野手。明治大卒業後、ENEOSで活躍。2016年ドラフト5位指名で阪神に入団
「同期に西村がいた分、青柳は損をしていた。西村は当時から150キロ近いまっすぐでねじ伏せるピッチャーだったから印象も派手。しかも、ハイレベルの関西(県立和歌山商)でガンガン投げていた西村と、神奈川の公立校(川崎工科高)で無名だった青柳でしょ」
ある他球団のスカウトは、逃がした魚は大きかった、と悔しがる。
「プロに近いレベルのサイドハンドなんて、なかなか出てこないんですよ。だけど、(リーグ戦の)土曜日に西村が150キロ投げて、日曜に青柳が投げて130キロ台だと、相対的にどうしても見劣るんです。そこが盲点だったかもしれない。オーバーハンドはたくさん見てるから、伸びしろとか将来性の見当がつくけど、正直言って、サイドハンドの場合は前例が少ないから、将来の想像がつきにくいってこと、あるかもしれないですね……」
オールマイティーなのに「評価が上がらない」
現在、青柳晃洋投手のチームメイトで、青柳投手の翌2016年ドラフトの同じ「5位指名」で阪神に入団したのが、糸原健斗内野手(ENEOS出身)だ。
島根・開星高当時から非凡な打撃技術を発揮して、1年秋の中国大会での9打席連続ヒットという偉業は、現場を見ていた者として鮮烈な記憶だ。
野球の現場で言う「付きのいいバッティング」。バットをボールに当てるのではなく、ボールのほうからバットにすり寄ってきて、ミートポイントでバットとボールがくっついて見えるようなアベレージヒッター独特のバッティングスタイルだ。
糸原選手がENEOSで活躍していた頃だったか……明治大当時の糸原選手をよく知っている方が、こんなことを話していた。
「糸原と同じ頃に、明治大には高山(俊)や坂本(誠志郎、ともに現・阪神)がいましたけど、野球の上手さでいったら、断然、糸原ですよ。まさに、野球をやるために生まれてきたヤツ。何年か後の渡邊(佳明、現・楽天)の野球カンの良さにも感心したけど、打てる、走れる、どこでも守れる……オールマイティーってことなら、間違いなく糸原なんですよ」
逆にそれが、評価が上がらなかった原因だったかもしれない、とも語った。
「アマチュアで三拍子ぞろいって、プロから見ると、飛び抜けたもののない平凡な選手ってことになるらしいんですよ。糸原は確かに三拍子ぞろいのユーティリティプレーヤーですけど、私はプロのレベルで三拍子揃ってると思いますね。今も、そういうタイプの選手としてENEOSで頑張ってるけど、彼のそういう“長所”が、かえって出世の妨げにならないといいんですけどねぇ……」
なぜ社会人3年目~、スカウトの興味が薄れるのか?
その心配は、2016年のドラフト5位で阪神に指名されたことで杞憂に終わる。