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日本フィギュアスケート界の問題点「スケート場閉鎖をきっかけに辞める子どもが多い」深刻なリンク不足で幼児クラスは“75人待ち”も… 

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沼澤典史

沼澤典史Norifumi Numazawa

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posted2022/03/04 11:03

日本フィギュアスケート界の問題点「スケート場閉鎖をきっかけに辞める子どもが多い」深刻なリンク不足で幼児クラスは“75人待ち”も…<Number Web> photograph by AFLO

2020年12月にオープンした「三井不動産アイスパーク船橋」。写真はオープン祝賀イベントでの村元哉中・高橋大輔ペア

「日本のウィンタースポーツは西武鉄道グループの元オーナーである堤義明さんが80年代からボランティア感覚で支えて来たものです。特にスケートやスキー選手を、グループ企業であるプリンスホテルなどに所属させ、練習に専念できるようにしました。その恩恵を受けたのが伊藤みどり選手や八木沼純子選手などです。日本のスケートリンクは、その時代に作られたものが多く、老朽化が進んで施設の更新ができずに廃止に追い込まれるケースが目立ちます。だけど日本のスケート界は、堤さんにおんぶにだっこの世代でしたから、彼が失脚すると行き詰まってしまった。みんなまじめなコーチですから、リンクの存続や増加はもちろん望んでいるけれども、そのためにどうしたらいいかがわからないんですよ」(梅田氏)

「一般客か、トップ選手か…」スケート協会のジレンマ

 スケート協会にもジレンマがある。スケートリンクが維持費を賄うための主な収入源は、一般客から徴収する利用料だ。しかし、一般客であふれているリンクでは、選手たちの練習時間が取れなくなってしまう。

「フィギュアのようにジャンプやスピンなどの動きがあると、一般客に混じって選手が練習するのは危険です。そのため、多くの選手は一般利用の時間を避け、早朝や夜の限られた時間帯に、数人規模で貸し切って練習します。一方、アメリカやカナダでは選手が中心になっていて、フィギュアやアイスホッケーの選手が貸切で練習できる時間が長く、一般利用は夜の短時間という形態が一般的。日本でも近年ではそうした営業形態のリンクが現れていますが、まだまだ足りません。全ての選手が十分に練習できる環境ではないです」(梅田氏)

 北米のリンク利用制度を取り入れた動きとしては、2019年に、木下グループが国際大会を目指すフィギュアスケーターの育成に乗り出し、「木下アカデミー京都アイスアリーナ」(京都府・宇治市)を建設している。また、前出の「三井不動産アイスパーク船橋」は、北米のシステムをよく知る元選手を施設マネージャーに据え、フィギュア選手のための貸切時間を多めに設けている。今後は、レクリエーション目的の一般利用者は冬季限定のリンクを利用し、通年リンクは競技者たちの利用を中心とするような、すみ分けが必要になっていくのかもしれない。

「そうした通年リンクは、すくなくとも各県にひとつはほしいですね。そうすれば選手の数も増え、質も高まりますから、日本のスケートのレベルは劇的に変わるでしょう。理想を言えば、『中京大学アイスアリーナ』(愛知県・豊田市)、『関西大学たかつきアイスアリーナ』(大阪府・高槻市)のように一般滑走がないリンクが、トップ選手のためにはもっと必要ですが……。いまの日本のスケート環境は、決して恵まれたものではありませんが、そんななかでも、続々とスター選手が登場しています。彼らの影響によって行政とスケート連盟が連携して、練習環境を整えてくれることを期待しています」(梅田氏)

 実際、一度は閉鎖に追い込まれながら、宮城県と仙台市からの支援をとりつけて再開にこぎつけた「アイスリンク仙台」(仙台市・泉区)の事例もある。

 また、一時は行財政改革の対象になった公営リンク「大阪府立臨海スポーツセンター」(大阪府・高石市)も、すんでのところで息を吹き返した。松井一郎府知事(当時)は改修費の半額に当たる1億5000万円を民間で集めることを存続の条件として突きつけたが、存続を求めるスケート関係者は、これをクリアしたのだ。このうち1億3000万円を寄せたのは、匿名の個人。スケート関係者によると、関西在住の旧華族に連なる人物だという。

 リンク存続を望む若き才能を前にして、フィギュアスケート界は、「第二の堤義明」を待つしかないのだろうか。

<前編から続く>

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