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「ソチでは一生思い出したくないほどのことが起きて…」浅田真央が明かす、その直後に『ノクターン』で世界新記録を出せた理由
posted2022/02/16 11:02
text by
浅田真央Mao Asada
photograph by
Miki Fukano
氷の上に立つと、自分と曲しかありません。ともに滑ってくれるのは曲だけなんです。だから、フィギュアスケートにおいて、選曲はとても大事だと思います。
現役時代、曲はカナダにいるローリー・ニコルのところに行って、いくつかローリーが選んだものから決めていました。自分の意見だけだと世界が広がらないので、他の人から勧められた曲を滑るのもいいことだと思います。
ローリーとの最初のプログラムは『くるみ割り人形』(チャイコフスキー)でした。まだ15歳で、“表現”とは程遠く、自分の感情をうまく出せない時期でした。
「エアロがいなくなったときのことを想像してみて」
ローリーから曲の内容を説明されて、こういうふうにしてみて、と言われても全然できなくて。少女が夢の中で恋心を抱くんですが、それが表現できないので、ローリーから「エアロ(愛犬の名前)がいなくなったときのことを想像してみて」と言われていました。
翌シーズンのショートで滑った『ノクターン』(ショパン)は、2013-'14シーズンにも滑っているので思い出深い曲です。クラシックは、ストーリーがないので曲に合わせてどう表現するかなんですが、「ノクターン」はそれがうまくできたプログラムだと思います。ローリーからは、私の滑りにすごく合っているからそのままでいいよと言ってもらい、気持ちよく滑っていた記憶があります。
このとき、ローリーは曲に合わせて振り付けをする先生だなと思いました。動きを先に付ける先生もいるんですが、ローリーは曲を何度も聞いてから合わせるので、ピアノを弾いている感じをスケートの滑りで表したという振り付けになっていると思います。それくらい細かく振り付けをしたのを覚えています。
23歳になって再び滑った『ノクターン』は、違うピアニストの演奏で、前回は軽やかな感じでしたが、テンポは少し遅く落ち着いたものになりました。