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JリーグPRESSBACK NUMBER
なぜ岩政大樹(現コーチ)は名門・鹿島からタイに移籍したのか?「ほかのOBと比べたら、僕の色は薄く感じられるだろうと…」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byGetty Images
posted2022/02/19 11:01
昨年12月上旬の取材後、岩政大樹は鹿島アントラーズのトップチームコーチに就任。2月13日の「いばらきサッカーフェスティバル」では監督代行としてチームを率いた
――岩政さんは2017年にJ2のファジアーノ岡山から、関東1部リーグの東京ユナイテッドFCへ選手兼コーチとして加入しています。同時に東京大学運動会ア式蹴球部のコーチにも就任。2021年は上武大学サッカー部監督を務められました。大学での監督経験はいかがでしたか?
小学校、中学校、高校、大学、そして社会人とすべてのカテゴリーで指導経験を積んできましたが、大学はいろんなトライができるという面でとても良い経験ができたと思います。高校生まではどうしても選手個人の技術や判断力を磨くことにフォーカスする時間が多くなってしまうんです。
でも、将来的にJリーグで監督をやりたいと考えたときに、育成年代とは指導の力点が違うと考えていました。たとえば、ペップやジダン、ラウールもそうですが、下位リーグに参加するU-23チームやBチームで監督経験を積むのがヨーロッパのスタンダード。自分にとってもそういう場所があればと思ったんです。
――Jリーグでも若手育成のためにエリートリーグが創設されました。しかし、残念ながら、トップチームで試合に出られない選手の調整の場となり、以前のサテライトリーグのような側面もありました。ひとつのチームを戦術的にマネージメントするという意味では欧州とは違いますね。
そうなんです。そう考えていたときに、上武大学から監督のオファーをいただきました。わずか1年ですが、監督として自分のスタイルを確立する機会を得られたのは非常に大きいと思います。たとえば、やりたいサッカーのビジョンを描いても、いかにそれをチームに落とし込んでいくのかは、実際にやってみないと確信は持てない。それはコーチだけでは得られない経験でした。
戦術面とマネージメント、両輪を回す難しさ
――コーチを長く続けるよりも、どんなカテゴリーでも監督としてキャリアを積むことは重要ですよね。監督は決断の仕事だとも言われます。参謀ではない。
サッカーのことだけを考えると、戦術や戦略、原則などピッチレベルの視点ばかりがどんどん膨らんでいくものです。でも、現場で直面するのは、マネージメントの視点です。選手一人ひとりに対してどう向き合うのか、選手の意識をどこへ揃えていくのか。どういうストーリーを描いて、選手の成長を促すのか。同じ絵を共有させながら、毎日を過ごさせることがチーム力になっていくと思っているので、いわゆるサッカー的な面とマネージメントの両輪を回す難しさがあるなと思います。
たとえば、ある選手が球際で競り負けました。「もっと競り勝たないと!」と伝えることも重要です。でもそれは戦術的な指示ではない。そこに至るまでのポジショニングの問題やチーム全体のことまで考えたら「こうすれば勝てたはず」という話をする必要もあります。でも、ひとりで同時に両方を伝えることはできない。だから、監督である僕がどちらかを担当し、コーチがもう一方を伝えることで選手も受け取りやすくなるんです。