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野球クロスロードBACK NUMBER
「こいつらを負けさせたらダメだ」聖光学院の名参謀を奮い立たせた“キャプテンの日誌”…「力がない世代」が甲子園切符を掴むまで
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2022/01/29 11:01
ミーティング中の聖光学院・斎藤智也監督
斎藤がニヤリと口角を上げる。
「奇跡だ、奇跡。秋の戦力ではどう考えてもセンバツには届かないと思ってた。これまで聖光学院が21回行ったなかでも、一、二を争うくらい信じられない甲子園切符だよね」
「部長の横山は自信を持ってたと思う」
ただし、これはあくまで斎藤個人の見解であって、聖光学院の総意ではない。そのことを念押しするように、監督はこう結んだ。
「横山は『奇跡』って言わないだろうね。俺は今のチームを7月からしか見てねぇから、秋の時点ではまだ細かく分析をできてねぇんだ。その辺、部長の横山はそれができているだろうし、自信を持ってたと思うんだよね」
横山博英。斎藤が聖光学院の監督に就任した99年秋から部長としてタッグを組む参謀であり、Bチームの監督を務める。今年3年生になる選手たちを1年生の秋から直接指導しているため、彼らと過ごした時間は長い。
その横山が昨秋、不機嫌そうな顔を見せた瞬間があった。
東北大会決勝で花巻東に敗れた直後のことだ。神宮大会への想いが、花巻東のほうが強かったんでしょうね――そう向けると、横山はムッとしてすぐさま切り返した。
「いや、そうじゃねぇ。それは違う」
根拠はあった。聖光学院の力量が例年より劣ることを以前から聞かされていたこと。一方で花巻東は、2年生から主力を張るメンバーが多く、大会期間中は誰もが「神宮大会に初出場し、花巻東の歴史を作る」と信じ切っていた。その温度差を感じたわけである。
「力があった」世代になかったもの
後日、あの日の真意を確かめようと改めて問うと、横山は諭すように話してくれた。
「スタート時点での力はなかったよ。でも、『力がある』と言われていた世代にないものを持っていた。それは謙虚さであったり、感性であったり、人の想いを感じ取るアンテナだったり。生徒たちと一緒にいればいるほど、『可能性が出てきた。このチームを負けさせちゃいけない』って思わせてもらえたというかね。力がなくても、強いチームと渡り合える土俵まで上がっていかないといけない。これは、俺にとってもチャレンジだったよね」
彼らが入学した2020年の春。期待より不安のほうが断然強かった。