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野球クロスロードBACK NUMBER
「こいつらを負けさせたらダメだ」聖光学院の名参謀を奮い立たせた“キャプテンの日誌”…「力がない世代」が甲子園切符を掴むまで
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2022/01/29 11:01
ミーティング中の聖光学院・斎藤智也監督
「こんなのを読まされたら、こっちも本気になるよね。他の生徒のレポートだって読むのがすごく楽しみになって使命感が宿ってくる。『こいつらを負けさせたらダメだ』って」
力はない。ただ、簡単にはくたばらない。「秋は面白くなるだろう」。そう横山が確信したのが、昨年の6月だったという。
4月に育成チームとの紅白戦に敗れるなど、志の高さと野球とのシンクロ率が高まらず、選手の士気にも迷いが生じていた。そしてこの6月、常総学院Bチームに2週連続で4試合を戦い全敗した。
「あいつらの本気が伝わってきた」
横山は約3年ぶりに体を張った。
それは、煮え切らない選手たちに本能を呼び起こさせるために、横山が選手一人ひとりと相撲を取る「取っ組み合い」。聖光学院Bチームで語り継がれる儀式でもある。
選手たちが号泣しながら横山の胸をめがけて突進してくる。51歳の精神が肉体を凌駕する。最後は赤堀になぎ倒された横山が、泣きじゃくる選手たちを見ながら決意する。
「あいつらに嬉し涙を流させてやりたい」
その翌日、横山は行先を告げずに選手たちをバスに乗せ、福島市内の信夫山の展望台まで連れて行った。形式上はミーティングだが、そこに広がっていたのは、心を通わせた者同士が語り合うような光景だった。
「Bチーム時代から生徒らの歩み一つひとつを辿ってきたときに、魂を揺さぶられるような、突き動かされるような感覚が宿っていったというかね。それくらい、あいつらの本気さが伝わってきたんだよ」
昨秋県大会、コーチ陣が作った“即席の垂れ幕”
夏に連覇が途絶え、BチームはAチームに昇格して横山から巣立っていった。
昨秋の県大会、初戦を延長戦で辛くも勝利し、続く試合も5回までリードを許した。まだまだ未完成のチームだったし、横山も部長として「ここを乗り切れなければ、お前たちはそこまでのチームだったということだ」と激しく活を入れた。
選手がうなだれそうな時、いつだって指導者が背中を叩いてくれる。
4回戦の光南戦当日の朝。強烈な文字が選手の闘争心に火をつける。
<ここまで来たらやるしかねぇだろ!! この弱かす野郎!>
コーチの堺了と岩永圭司による、即席の垂れ幕だった。甘い言葉などいらない。辛辣ななかにこそ、聖光学院は魂の根源を見出す。