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“平凡な女流棋士”だった22歳の決断「自分を変えないと、ここから先には…」渡部愛がすがった“将棋界初のコーチング”とは
posted2022/01/20 17:00
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph by
Yuki Suenaga
現在の女流棋界は、里見香奈女流と西山朋佳女流の二強と言われている。
昨年11月に加藤桃子女流が8大タイトルの一つである「清麗」を里見から奪取したものの、それ以外の7つを里見と西山で分け合っている状態だ。女流棋界を牽引しているのは、この両者だと言っていいだろう。
彼女たちの共通点は、「奨励会」と言われるプロの養成機関に在籍経験があることだ。男性棋士と同じプロ棋士となるには奨励会で四段まで昇段しなくてはならないが、里見と西山はその一歩手前である三段まで上り詰めた。加藤も奨励会初段まで経験がある。つまり、タイトル戦の常連となっている女流棋士というのは、奨励会という環境での切磋琢磨を経験している者がほとんどなのである。
2020年10月、女流の新棋戦として創設された「ヒューリック杯白玲戦」。64名の女流棋士が1年間に渡って順位戦を実施し、優勝賞金が女流タイトル戦最高額となる1500万円であることも話題を呼んだ。昨年9月からは「初代白玲」の称号を懸けた七番勝負も繰り広げられた。
里見を下した新星の意外なキャリア
その決勝の舞台に勝ち進んだのは、二強の一角である西山朋佳だった。一方で、もう一つの順位決定トーナメント準決勝では、本命とみられていた里見香奈が敗退する波乱が起きている。
里見に勝利したのは、渡部愛女流三段。
本格派居飛車党として評価を高めている彼女は、18年に初タイトルとなる女流王位を獲得している。近年、目覚ましい活躍を見せている女流の1人である。
意外なのは、彼女のキャリアかもしれない。
日本女子プロ将棋協会(LPSA)に所属し、西山や里見らと違い、奨励会に在籍していた経験はない女流棋士だ。実際、デビュー当初はそれほど目立った成績をあげる存在でもなかった。
にもかかわらず、ここ数年で棋力を向上させ、女流のトップ争いに名乗りを上げているのである。そして第1期白玲戦では準決勝で里見を撃破し、決勝の七番勝負まで勝ち進んできたのだ。
一体、いかにして渡部愛はここまで強くなっていったのか。
そこにあったのは、将棋界初となる現役棋士によるコーチングと徹底した強化カリキュラム、そしてそれをひたむきにやり続けた、彼女自身の強い意志だった。