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森保監督の著書を徹底解析して分かった、日本代表からぬぐえない“危機感”の正体「プロセスは明かさない」「絶対に許さないタイプは…」
posted2021/12/06 17:03
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
Kiichi Matsumoto/JMPA
「森保さんって文系だよね」
試合中にノートを取り出し、ペンを走らせる。日本代表の森保一監督のおなじみの姿は、まるで受験生のようだ。
2014年12月。当時はサンフレッチェ広島を率いていた森保監督は『プロサッカー監督の仕事~非カリスマ型マネジメントの極意~』(以下、『プロサッカー監督の仕事』)というマネジメント本を世に送り出した(*森保監督の受け取るべき印税は、同年8月に発生した広島豪雨土砂災害の義援金として全額寄付)。そこには、その年の6~7月に開催されたブラジルW杯に関する、以下のような記述がある。
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大会期間中はJリーグが中断していたため、チームはオフがあったり、キャンプをしたりという状況でしたが、僕は4年に一度のサッカーの祭典をできるだけテレビで観戦するようにしていました。
正直、寝ぼけながらで印象に残っていない試合もあるし、録画だったり、サラッと観た程度だったりする試合もありましたが、僕はなんとか、大会全64試合を「完全視聴」することができました。ハッキリ言って、この時期はかなり寝不足になりました(笑)
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この姿勢は、森保監督がクラブチームではなく代表チームを指揮するようになった今でも変わっていない。ヨーロッパ各国でプレーする日本人選手の映像は、「(試合の)間を飛ばして見たり。途中出場の選手はその時間だけ観るとか、流れがわからずに見ていることがありますけど。選手がピッチに立っているプレーは出来るだけ確認しようということで試合を見ています」と語っていたこともある。
森保監督は、量を積み上げる「文系」タイプ
おそらく、代表監督が候補選手の所属クラブでの試合を見る際には2つのパターンがある。
1つが、量よりも質を求めるタイプ。候補選手のパフォーマンスを見るのを前提としつつも、その選手の所属チームや相手チームの戦い方や両チームの監督の采配を踏まえながら、サッカーの真理を考えていくタイプ。受験生に例えれば、理系に進む学生の数学への取り組み方に近いと言える。
もう1つが、質よりも量を求めるタイプ。試合の流れやトレンドや両チームの監督の采配について見逃すリスクと引き替えに、候補選手たちの一つひとつのプレーをできるだけ多く見ることを優先するタイプ。これは候補選手たちと顔を合わせたときの健全なコミュニケーションにもつながる。文系の学生が、数学の試験に出る範囲の解法パターンをひたすら暗記していく取り組みに近い。
サッカーのW杯で良い成績を残すためには理系タイプの監督と文系タイプの監督と、どちらが適任なのかの議論は置いておくが、ハッキリしているのは、森保監督は徹底的に数を積み上げる文系タイプだということ。だからこそ、日本人指導者の誰もが憧れる日本代表監督の座に登り詰めた。そこで、今回は著書をもとに、この激動の2カ月の森保監督の決断と行動の意味を考えていきたい。
(1)〈プロセスは極力明かさない〉
10月11日、オーストラリア戦前日の記者会見。ANN (オーストラリア戦を生中継したテレビ朝日をキー局とする民放テレビ局のニュースネットワーク)のYouTubeチャンネルには、あの会見のノーカット版が今も視聴可能な状態で置かれている。そのコメント欄の一番上に来ているのが以下のものだ。
「質問に対して長ったらしく答えることで質問自体がなんだったのか分からなくさせる話術スゴすぎる!」(*原文の通り)
これはさすがにリスペクトを欠いたコメントだが、視聴者がそう感じるのは、監督のポリシーと無縁ではないだろう。著書にはこう書かれている。