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オリックスの「データと役割」野球を撃破…ヤクルト高津臣吾監督が信じた<“主役は自分たち”とノムさんの教え>とは
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/11/28 12:10
4勝2敗で日本シリーズを制し、宙を舞ったヤクルト高津監督
吉田はここまでシリーズ4戦以外の5試合に登板して、第3戦では右のサンタナに決勝2ランも浴びてもいた。しかももし1人、走者を許せば左の川端が出てくることは分かっている。それでもあえての吉田投入は、データで右投手に弱い塩見1人を抑えれば負けはなくなるという計算だった。しかし結局はそのリレーが、あと1アウトからの決勝タイムリーを生むことになってしまった。
データと役割にこだわりすぎた弊害
選手個々の役割を明確にして、その役割に従って仕事を与え、チームのモチベーションを上げてきたのが中嶋監督の選手起用、采配である。もちろんそのマネジメントが前年最下位だったチームが、一気にリーグ優勝へと駆け上がる大きなカギとなったことは間違いない。
ただ、最後の最後にデータにこだわりすぎ、役割にこだわりすぎた弊害が出た。選手の状態を的確に判断して、マクガフに2度の回またぎをもさせる高津采配と、データや役割を優先して小刻みな継投に走ってしまった中嶋采配が、勝負の明暗を分けたことだけは確かだった。
そして敗れたチームはミスから崩れることの多かったこのシリーズ。最後の最後もパスボールというミスからオリックスは踏ん張りきれなかった。
そういう意味ではオリックスは敗れるべくして敗れたということだったとも言えるだろう。
「野村監督の言葉をちょっとお借りして」
「本当に応援してくださったファンの皆さん、そして選手諸君、球団スタッフの皆さんに心から感謝、感謝、感謝です」
試合後の優勝監督インタビューでこう語った高津監督の心には、師である故野村克也元ヤクルト監督の「人生の基本となるのは感謝である」という教えがあった。
「野村監督の言葉をちょっとお借りして、あそこでは述べさせていただきました。勝ったら言おうと思っていました」
データを分析し、活用して試合を支配していくのが野村“ID野球”である。ただそこにはもう1つ、観察という大きな視点があって初めて、IDは活用できるというのも野村監督の教えであった。
データだけに縛られることなく、選手個々の力をフルに引き出した。
そこに高津野球の強さがあったのである。
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