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オリックスの「データと役割」野球を撃破…ヤクルト高津臣吾監督が信じた<“主役は自分たち”とノムさんの教え>とは
posted2021/11/28 12:10
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Hideki Sugiyama
最後は“神様”の執念の一振りだった。
延長12回2死一塁。ここで決めなければ勝ちはなくなる土壇場でヤクルト・高津臣吾監督が切り札のカードを切った。
「代打・川端!」
アンパイアに告げたのはレギュラーシーズンでは代打で打率3割6分6厘をマークし“代打の神様”として、優勝の立役者の1人となった川端慎吾内野手だった。
「ランナー一塁だったので、まあ後ろも山田(哲人内野手)、村上(宗隆内野手)と3、4番がいたので、何とか後ろに繋ごうという気持ちで(打席に)入ったんですけど……」
天才は、最後に左手でボールを押し込んだ
オリックス6番手・吉田凌投手がカウント2ボール2ストライクから投じた5球目が、勝負の分岐点となる。インコースへのスライダー。これが少し指に引っかかり、これを伏見寅威捕手が後ろに逸らす。このミスで一塁走者の塩見泰隆外野手が得点圏の二塁へと塁を進めることになった。
その直後だった。
「ランナーが二塁に行って……またいいところに落ちてくれて……」
インハイの130kmのスライダーに、川端は完全に詰まらされた。打ち取られた打球である。だが、天才はその差し込まれる中でも、最後に左手でボールを押し込んだ。フラフラと上がった打球が前進守備の左翼手・吉田正尚外野手の前にポトリと落ちた。スタートを切っていた塩見が頭からホームに滑り込み、土壇場でスコアボードに1点が刻み込まれた。
そしてその裏は10回途中からマウンドに上がっているスコット・マクガフ投手がオリックスの攻撃を0点で抑えて激闘に終止符が打たれる。シリーズ6試合で5度目の1点差勝負をヤクルトが制して、20年ぶり6度目の日本一に輝いた。