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過酷すぎるサハラマラソン「大会後のトマトに感動した」 初出場の女性ランナーが“日本人史上最高の準優勝”を勝ち取るまで
posted2021/11/29 11:01
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
Tomosuke Imai
今年の10月、1人の日本人ランナーが異国の地で快挙を成し遂げた。世界で最も過酷なレース「サハラマラソン」で女子総合準優勝を果たしたのだ。
7日間水以外自給自足のサバイバルレースを完走した尾藤朋美さん。元保育士という異色のランナーでもある。なぜ彼女は初出場にして準優勝できたのか。準優勝までの過酷ぶりを振り返ってもらった(全2回の2回目/#1から続く)。
◆◆◆
サハラマラソンは、4日目を迎え、オーバーナイトステージに突入した。徹夜で82.5キロを走り切る、大会で最もハードな区間だ。体調を崩してなかなか食事も摂れない尾藤朋美さんはエネルギーが枯渇し、キロ11分ペースでほとんど歩いている状態だった。
コースも難所が多く、例えば砂丘の山も岩の間をロープを使って登らなければならない。険しい砂の丘をようやく上り切っても今度は急な下りがつづく。普段はポンポンと軽快にいける下りも1歩1歩しか下りられず、少し前に飲んだ貴重なジェルを気持ち悪くなって途中で吐いてしまった。
「貴重な100キロカロリーが……って思いましたけど、それでも前に進むしかなかったですね」
夜になっても不調はつづいた。
「人間、追い込まれると、いろんな工夫ができる(笑)」
大会期間中にとにかく困ったのは、トイレだ。何もない砂漠の中において、水洗トイレは当然ない。野営ポイントでのトイレは、布で周囲を覆われた狭いスペースにプラスチックの便座のような骨組みが置かれているのみ。そこに自分でビニール袋を入れて、用を足して終わるとそれを縛ってゴミ箱に捨てるというものだ。
レース中では、コースから少し外れて青空の下で用を足すことになる。走っていて前の選手が横道に入っていくのが見えると、だいたいトイレの合図だ。
3日目、尾藤さんはお腹の調子が悪かったので、初めて青空トイレを経験した。トイレットペーパーはそのままだとかさばるので、芯を外して折り畳み、ジップロックに入れて持ち込んでいる。終盤には下痢のために紙が足りなくなりそうだったので、1日2枚で14枚が必携だったマスクを、紐を取ってティッシュとして代用したという。
「人間、追い込まれると、いろんな工夫ができるんだなって思いました(笑)」
残り51キロ「優勝は無理だけど準優勝ならいける」
4日目、終わった時点で女性のトップと3位の尾藤さんの差は、2時間23分だった。この時点で優勝は現実的に難しくなった。だが5日目が終わった時点で、2位の選手とのタイム差は10分になっていた。これは十分、逆転できるタイム差だ。