- #1
- #2
Number ExBACK NUMBER
過酷すぎるサハラマラソン「大会後のトマトに感動した」 初出場の女性ランナーが“日本人史上最高の準優勝”を勝ち取るまで
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTomosuke Imai
posted2021/11/29 11:01
今年10月にサハラマラソンで準優勝した尾藤朋美さん。保育士から転身し、数々の大会で結果を残してきた“異色のランナー”でもある
「モロッコのホテルのバスルームには石鹸しかないんですけど、温かいシャワーは本当に幸せでした。トイレも水が流れるというだけで感動していましたね。流すということを9日間していなかったので、ついつい忘れてしまいそうになりました(苦笑)。でも、一番感動したのは、トマト。すごくみずみずしくて本当においしかった。砂漠から解放されて、すべてが幸せでした」
トイレやシャワーがない世界で1週間走り続け、嘔吐し、下痢をして、食事も摂れず、「30年生きていて一番体調が悪い」経験もした。それでも尾藤さんは、レースが終わってすぐに「リベンジ」を決心した。
「今回いろいろ経験したことをベースに、ゴープロ撮影をやめて、食料もちゃんと整えていけば、トップとの差はつめられるんじゃないかなって思ったんです。来年の3月には、もう次の大会があるんですけど、そこだと練習期間がないので、2023年の大会までちゃんと練習して、メンタルも体も強くして、世界一になりたいと思っています」
サハラマラソンで準優勝したのに「思った以上に…」
尾藤さんは、プロのランナーである。
いろんなレースに出場し、結果を出していく。それをメディアに取り上げてもらうことで自分の価値を高めていく。だが、日本の主要なメディアは、マラソンやトラックレースなど陸上の王道でなければ取り扱うのが難しい状況だ。トレイルのレースも愛好者は多いが、まだまだマイナーで一般的なスポーツ媒体が取り上げることはほぼない。尾藤さんは、スパルタンやトレイルで結果を出し、今回もサハラマラソンという世界でもっとも過酷なレースで準優勝しているが、報道されることはほとんどなかった。
「インスタグラムのフォロワーさんや仲間からおめでとうって言ってもらえてすごく嬉しかったんですが、思った以上に全然(メディアからの取材依頼なども)なくて(笑)。確かに、サハラマラソンっていってもみんなよく分からないでしょうし、知らないですからね。なかなか再生回数が伸び悩んでいたYouTubeチャンネルで、サハラマラソンの動画が1万回以上再生されたぐらいですよ。優勝したら違っていたのかもしれないですけど、もっと頑張っていかないといけないなって思いましたね」
露出は増えなかったが、誰かがきっと見ている。いつか、その努力の対価として、きっと何かに結びつくはずだ。そして、尾藤さんは、もう次に向けて動き出している。
12月3日には、アブダビでスパルタンレースの世界大会が開催されるが、その大会に日本代表として出場する。ランニングチームで女性ランナーの指導を継続し、来年は、ほぼ毎週末レースをこなしていく。来年には尾藤さんがプロデュースするマラソンイベントも準備中だ。「みんなが元気に、笑顔に」という、尾藤さんらしいコンセプトで老若男女が楽しめるイベントになりそうだ。
“世界一過酷なマラソン”を笑顔で走り切れた理由
インスタグラムを始め、YouTubeでもそうだが、尾藤さんは、いつも笑顔だ。あんなに過酷なサハラマラソンもゴープロを持ちながら笑顔でレポートして走っていた。
なぜ、いつも、笑顔でいられるのだろうか。