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過酷すぎるサハラマラソン「大会後のトマトに感動した」 初出場の女性ランナーが“日本人史上最高の準優勝”を勝ち取るまで
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTomosuke Imai
posted2021/11/29 11:01
今年10月にサハラマラソンで準優勝した尾藤朋美さん。保育士から転身し、数々の大会で結果を残してきた“異色のランナー”でもある
サハラマラソン最終日の前日の夜、尾藤さんは、テントの中から顔だけ出して、夜空を眺めた。漆黒の闇の中に、流れ星がいくつも落ちていくのが見えた。
「残り42キロでトップの選手とは2時間30分の差があったので優勝は無理だったんです。でも、2位の10分差ならいける。3位と準優勝じゃ全然印象が違うじゃないですか。テントから頭を出して、たくさんの流れ星に神頼みしていました。絶対に準優勝したいって」
レース6日目と、最終日は合わせて51キロを走る。
2位の選手との10分差を縮めるため、尾藤さんはそれまで記録用として撮影していたゴープロを封印した。女性選手について走る戦略も変えて、男性ランナーの背後についていった。みな背が高く、斜め後ろで走ると日除けと風除け、砂除けになるからだ。後ろは気になったが一切、振り返らなかった。
「今走っている以上に速く走れないので、振り向くのはムダだなって思ったんです。もう前を向いてひたすら走っていました」
ラスト、大きな山を越えると眼下にゴールが見えた。その瞬間、急速にエネルギーがチャージされたように元気が湧き、前を走っていた男性ランナーたちを次々と抜いて下りていった。ゴール前で日の丸を掲げ、笑顔でフィニッシュラインを切った。
「後ろとけっこう差があったので、これは2位いけたんじゃないって思いました」
1位の選手との差は?「コースのど真ん中でトイレ」
最終ステージのタイムは尾藤さんがトップだった。そのラストスパートが功を奏し、女子総合2位、準優勝を勝ち取った。ちなみに優勝したランナーは、モロッコの現地企業が全面バックアップしている常連選手で尾藤さんとトータルで約4時間もの差がついていた。
「1位の選手を見ていてすごいなって思ったのは、トイレです。普通はコースからちょっと外れて用を足すんですけど、彼女はコースのど真ん中でしゃがみこんで用を足してすぐにまた走り出すんです。私はまだそこまでの度胸がなくてどうしても道から外れてしまう。走力やいろんな課題があるけど、そういう細かいところでロスタイムが積み重なると大きいですよね」
7日間の砂漠生活を終えて「一番感動したのは“トマト”」
レースを終え(表彰式などが終わった翌日にはチャリティーステージでさらに8キロを走ったという)、ワルザザードのホテルに戻ってきた。サハラマラソンの7日間、プラス2日前から現地入りしていたので、9日間、シャワーとトイレがない生活だった。髪の毛はバリバリになり、乾燥と砂まみれの生活のせいか肌荒れがすごく、鼻の下も乾燥で切れているような状態だった。