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佐々木麟太郎ら「2005年世代」高1左スラッガー“3人衆”に驚かされた…村上宗隆、清宮幸太郎、安田尚憲「2017ドラフト組」を思い出す
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byYuki Suenaga
posted2021/11/26 11:04
佐々木麟太郎(1年・183cm117kg・右投左打)、2005年4月生まれ
最初の試合での花巻東・佐々木麟太郎の右翼弾を知った上での「佐倉侠史朗 、参上!」なら、オレだって……と思わず気負ってしまうのも、むしろ「1年生」らしい。
ジャストミートを逸した二塁ゴロと三振。誘い球を見極めた四球に、2死二塁でのほぼ敬遠。
この日、佐倉の「最大値」は見られなかったが、私の中に落胆はない。10日ほど前の九州大会、県立鴨池野球場(鹿児島)で、彼の「そこ」をしっかり目撃していたからだ。
雨の中の、下が緩いグラウンドコンディションで、それでもスイング軌道に崩れのない強烈な二塁ゴロとセンターライナーの後だ。
左腕のカーブを見せられた直後のまっすぐを、ドンピシャのタイミングで捉えたライナーの打球が、両翼98mの右中間場外に見えなくなった。
バットが割りばしのように見え、打球はピンポン球に見えた。それ以上に、左腕のクロスファイアーの球道に、スイング軌道をピシャリ合わせてきた「技術」に舌を巻いたものだ。
【3】「偉大な先輩が重なった」真鍋慧(広陵)
と……“再来年”は、たいへんなことになりそうだと思っていたら、翌日の大会2日目、もう1人の「1年生左打ちスラッガー一塁手」が登場したから、なんだこりゃ!と胸が躍った。
広陵高・真鍋慧一塁手(1年・189cm89kg・右投左打)。
こちらは、均整抜群のアスリートタイプのユニフォーム・シルエット。左中間のシングルヒットで一塁からサードを奪うスピードが目をひく。一塁線の鋭い打球に対する反応と、打球を吸収してしまうようなハンドリングも見事なものだ。
そして、そのバッティング。無理やり強く振ろうとし過ぎない。バットコントロールの邪魔にならない範囲の、ほどよい強さで振れる「才能」が見えるように思う。
明秀日立高とのこの試合。
最初の打席から、追い込まれてからの沈む系のボールにしっかりミートポイントを作って、強烈なゴロで一二塁間を抜くと、3打席目が素晴らしかった。
高めに浮いたカーブ。顔の高さに近いインハイを、バットをかぶせるようにしてライト線のライナーにしたとっさの「技術」はなんだ。
ただでさえ、腕の長い長身打者のインコース。さらにスイング軌道を作りにくいはずの「高め」を、両腕きれいにたたみ込んで、ライナーをファールにしなかった。
準決勝の花巻東戦では、やはり内角スライダーをライトポール際に放り込んだという真鍋。長身打者が内をさばけるのは、人が教えてもなかなか身につかない「天性」だろう。ちょっと重なったのは、広陵高の偉大な先輩・佐野恵太(現・DeNA)の、アベレージも本塁打も期待できるバッティングスタイルだ。
高校野球の再来年が、いよいよたいへんなことに、いや、とんでもないことになってきた。
早稲田実業に清宮幸太郎(現・日本ハム)がいて、九州学院に村上宗隆(現・ヤクルト)がいて、履正社に安田尚憲(現・ロッテ)がいた「2017ドラフト」。そんな雲行きになってきたが、誰が清宮で、誰が村上で……そんな妄想は時間のムダだ。
少し先の話になるが「2023ドラフト」では、佐々木麟太郎、佐倉侠史朗、真鍋慧……この2005年生まれの3人で、また新しい世代と時代を築いてくれたら、それでいい。そして、願わくば、彼らの後にその4人目、5人目、6人目が現れんことを。