《全国デビュー→初優勝》大阪桐蔭の“1年生サウスポー”前田悠伍、その計り知れない“伸びしろ”とは？ 敵将「手も足も出ません」

　帽子が宙に舞い、マウンドに落ちる。

　仁王立ちのような佇まいからのノーワインドアップモーション。鞭のようにしなる腕。躍動感あるピッチングフォームからボールを繰り出すと、それが調子のバロメーターであるかのように、大阪桐蔭の1年生左腕・前田悠伍の帽子が勢いよく飛ぶ。

大阪桐蔭の1年生左腕・前田悠伍（179cm、73kg） ©Yuki Suenaga

すべての写真を見る（22枚）

　秋の大阪大会と近畿大会で好投し、「スーパー1年生」とにわかに注目を浴び始めて迎えた明治神宮大会。名門校の「超新星」のインパクトは、絶大だった。

1年生左腕に「手も足も出ませんでした」

　敦賀気比との初戦。4回から2番手としてマウンドに上がり、左腕をしならせる。キャッチャーからボールを受けると、すぐに仁王立ちのノーワインドアップモーションに入り、同じように小気味よく投げる様は、初々しさより洗練を思わせる。この試合、「最速145キロ」と謳われるストレートの最速は144キロ。キレのあるボールに相手バッターのバットが空を切り、右バッターの懐をえぐるようなクロスファイヤーでゴロを築く。

　6回を投げ2安打無失点、10奪三振。ほぼ完璧で、圧巻の全国デビューだった。

「1年生でも素晴らしいボールがあって、うちには手も足も出ませんでした」

　3回までリードしながら前田の登板以降は沈黙した打線に、敦賀気比の東哲平監督は言葉少なに脱帽するしかなかった。

本人&西谷監督が言った「のびのび」の真意

　2020年秋から3季連続で北信越を制している福井の強豪を唸らせた。大仕事をやってのけても前田は、喜びを表面化することなく冷静に自身のピッチングを受け止めていた。

「いつマウンドに上がってもいいような心構えでしたし、準備もしていたんで。マウンドに上がってからは、いつも通りのびのびと投げるだけでした。今はまだ、その段階なので」

　のびのび。

　それはテーマではなく、前田が今の能力でどれだけのパフォーマンスを示せるか、いわば試運転とも言えるフェーズを意味する。

　監督の西谷浩一も、敦賀気比戦からこのような趣旨の言葉を繰り返していた。

【次ページ】　怪物1年・佐倉（九州国際大付）に打たれるも…