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《奄美から甲子園当確》大島高ってどんなチーム? エース大野稼頭央「知らないバッターに投げる経験が少ない」「集落全体を使って鬼ごっことか」
posted2021/11/28 17:03
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph by
Takahiro Kikuchi
「今日は本当にすみません。また明日もありますので……。まだ食事もできていない選手もいるんですよ。なので取材は本当にすみません!」
薄暗いベンチ裏通路に大島高校監督・塗木哲哉の悲痛な言葉が響く。
無理もない。この日、1回表から雨の降りしきる悪天候のなか秋季九州大会1回戦に臨んだ大島(鹿児島)は、大分舞鶴(大分)との延長10回に及ぶ激戦を戦っていた。延長11回に入る前に審判団が試合を止め、4対4の同点のままコールドゲームを宣告。翌日に引き分け再試合を戦うことになった。
次々に強豪を撃破→センバツ当確
エース左腕の大野稼頭央は、この日186球を投げていた。引き分けに終わった試合後、大野の囲み取材を待つ報道陣に対して、監督の塗木は申し訳なさそうに冒頭の言葉を告げたのだった。長い時間、雨に打たれた選手たちを一刻も早く温め、休ませてやりたい。そんな親心が滲んでいた。
この時点で、大島が九州大会で決勝戦に進出することを予想した人間など、ほとんどいなかったのではないだろうか。
結果的に大島は翌日の再試合を3対2で制し、中1日で迎えた準々決勝・興南(沖縄)戦は3対0で勝利。ベスト4に進出して、翌春の選抜高校野球大会(センバツ)への出場が濃厚になった。さらに中1日での準決勝では打撃戦の末に有田工(佐賀)を11対7で退け、決勝戦に進出。連戦となった決勝は九州国際大付の前にワンサイドゲームになったものの、最終回に5点を返して6対12と意地を見せた。
実戦経験は「公式戦で勝ち進むこと」でカバー
躍進の立役者になったのは、引き分け再試合を含め序盤の3試合を完投した大野である。4日間で28回、467球を投げている。投手の連投や球数に対してナーバスになってきた現代高校野球にあって、異様な数字である。
しかし、大分舞鶴との再試合を制した試合後、塗木の語った実情は興味深かった。
「コロナの影響でほとんど練習試合ができていないので、公式戦で投げ込みをしているようなものです」