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大谷翔平とエンジェルスのチーム改造。FA市場で先発投手陣を鋭意補強し、6年連続負け越しからの脱却なるか?
posted2021/11/20 11:00
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
大谷翔平が「満票」でア・リーグMVPに輝いた。満票受賞は21世紀に入ってから5人目で、負け越しチームから出たのは史上初の快挙だ。よかったという気持と、当然だろうという気持が交錯している。「すぐれた成績の」選手はほかにもいたが、「歴史に爪痕を残した」選手は、大谷以外にいなかったからだ。
それにしても、近ごろのエンジェルスはMVPをよく送り出す。マイク・トラウトが2014年(このときも満票だった)、16年、19年と3度。大谷翔平が21年に初受賞。8年間でMVPを4度も送り出したチームは、近ごろでは、バリー・ボンズが全盛期だったころのジャイアンツ(2000年から04年まで5年連続)以来だ(昔は、ヤンキースとカーディナルスの寡占状態が珍しくなかったが)。
それなのに、チームとしてのエンジェルスはさっぱりうだつが上がらない。同時期の8年間を振り返ってみても、ポストシーズンに進出できたのは14年の1度きりで(ALDSでロイヤルズに0勝3敗と敗退)、地区2位が1度(17年。首位アストロズから21ゲーム差!)、地区3位が1度(15年。首位レンジャーズから3ゲーム差)、残る5年はいずれも地区5球団中4位に甘んじている。
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要するに、16年以降のエンジェルスは、からきし弱い。6年連続の負け越しで、首位とのゲーム差は合計で128ゲームに達する。短縮シーズンを含めても、年平均20ゲーム以上の大差だ。
これでは、メディアの耳目を集めた大谷翔平の発言(「ぼくはこのチームが好きですが、それ以上に試合に勝ちたいのです」)が飛び出してくるのも無理はない。チーム再建を促す発言とも、あるいはチームに対する最後通告とも取れる発言だったが、後者と見なすのはさすがに時期尚早だろう。
大谷とエンジェルスとの現在の契約は22年いっぱいまで残っているし(22年シーズン終了後に年俸調停権を得る)、FA資格の取得は23年シーズン終了後のことだ。普通に考えれば、エンジェルスはその前に「あらゆる手立てを用いて」大谷の引き留めにかかるはずだ。
チーム浮上のカギはFAにあり
仮に大谷の爆弾発言がなかったとしても、エンジェルスの弱体は歴然としている。まず、だれもが指摘するとおり、投手陣が弱すぎる。21年の先発投手平均防御率は4.78(MLB30球団中22位)だったが、20年は5.52、19年は5.64(ともに全体で29位)と、眼を覆いたくなる惨状だった。今季にしても、大谷の奮戦(130回3分の1を投げて防御率3.18)がなければ、もっと情けない数字が並んでいたにちがいない。
GMのペリー・ミナシアンは、補強の具体策を持っているのだろうか。
補強の要諦は、育成/トレード/FA市場の3つだ。ただ、エンジェルスのファーム・システムはけっして充実していないので、最初のふたつ(育成とトレード)にはあまり期待できない。トレードも? と首をかしげる方はいるだろうが、即戦力選手を獲得するには若手有望株との交換が欠かせないのだ。この傾向は、近年ますます強くなっている。となると、残る希望はやはりFA市場か。