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《東京五輪金メダル監督》がなぜ日本のVリーグに? 眞鍋新代表監督もお手本にする知将ロラン・ティリのバレーボールとは
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2021/11/13 06:01
パナソニックパンサーズを率いて2年目を迎えたロラン・ティリ監督。寝られなくなるほど、バレーボールのことを考え込む毎日だという
パナソニックは過去10年間で8度リーグの決勝に進出し、4度優勝している強豪で、メンバーはほぼ固定されていた。だが昨季は、それまでほとんど出場機会のなかった選手が先発するなど起用法が一変。試合中の選手交代もすばやく、実績は関係ない。まさに“全員が戦力”を目に見えるかたちで実行しており、それまで控えだった選手はモチベーションが上がり、実績ある選手は危機感を抱く。必然的に日々の練習から熱気は高まった。
絶対的な司令塔だった深津も例外ではなかった。
「びっくりしましたよ。『え? もう代えられちゃうの? はえーな!』って」
そう苦笑する。一旦コートの外から試合を見て冷静になり、次のセットの頭から戻るパターンかと思いきや、交代した新貴裕がそのまま次のセットも任された。
「『いや取り返したいよ』って気持ちはあったんですけど、でもそのまま行って結果的に勝つ試合がいくつもありました。いい意味で、いろんな常識を覆された。すっごいなーと思いますよ、あの人は。東京五輪でもそういう場面がありました。途中でセッターを代えて、ファイナルに行って、優勝しちゃった。他の人には見えていないものが見えているような感じがします」
「ゲームプランが気になって寝られない」
9年間の強化が実り、戦術や采配もはまって東京五輪で頂点をつかんだ。金メダル監督の称号を手にして臨む2年目のVリーグ。揺るぎない自信を得てどっしりと構えているのだろう、という予想は覆された。Vリーグ開幕の数日前にインタビューに訪れると、ティリ監督は、「ストレスだらけで、今朝も4時に目が覚めてしまった」と苦笑した。
「(開幕戦で対戦するウルフドッグス名古屋の)クレクにどう対応するか、相手はどのセッターでくるのか、こちらはどんなメンバーでスタートするか……ゲームプランが気になって寝られない」
普段は陽気で親しみやすい人柄で、選手に対しても熱く、ポジティブな言葉をかける。しかし頭の中はネガティブで、常に最悪の事態を思い描き、不安が絶えない。
「試合が始まってしまえばプレーするのは選手だけれど、監督はそれまでに最悪の事態を想定し、できる限りの準備をする」というのがポリシーでもある。
チャレンジが大好きで、未知の文化に触れたいという思いもあり、フランス代表監督の続投要請を断って選んだVリーグでの仕事は気に入っているようだ。
「本当にグッドサプライズだった。Vリーグは世界的には有名ではないけれど、スキルのレベルが高く、チームの組織や選手の環境は世界の中でもベストだと思う」
ただ物足りなさを感じる部分もある。「宣伝」と「プレーオフのあり方」についてだ。