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《東京五輪金メダル監督》がなぜ日本のVリーグに? 眞鍋新代表監督もお手本にする知将ロラン・ティリのバレーボールとは
posted2021/11/13 06:01
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Noriko Yonemushi
今年10月、5年ぶりにバレーボール女子日本代表監督に復帰した眞鍋政義が、3年後のパリ五輪に向けて「お手本にするチーム」に挙げたのが、東京五輪男子バレーで金メダルを獲得したフランスと銅メダルのアルゼンチンだった。
「この2チームは、身長が高いわけではないけれど、失点が非常に少なく、結束力が高い。ヒントがたくさんありました」
フランスに初めてバレーボールの五輪金メダルをもたらした監督は今、日本にいる。V.LEAGUE DIVISION1(V1)男子のパナソニックパンサーズで昨季から指揮をとっているロラン・ティリ監督である。
低迷していたフランスを再建
以前のフランスは決して強豪というわけではなかった。だが2012年にティリ監督が就任すると劇的な変化を遂げた。
就任当時、フランスは2008年北京、12年ロンドンと2大会五輪出場を逃し、世界ランキングも21位と低迷していた。ティリ監督は当時をこう振り返る。
「選手同士のいさかいが多く、モチベーションも低かったし、バレーボール協会は財政難。五輪に出場できずフラストレーションもたまっていた。何より大きな問題は、長期的なプログラムが何もなかったこと。1年単位でしか考えていなかった。それではうまくいかない。だから私は1、2年目の結果は重視せず、次のオリンピックまでの4年間のプログラムを作り強化を進めました」
選手たちが同じ方向を向き、チームの勝利のために尽くせる集団を作るために、コート内外で改革に着手した。
「これまでの実績は過去のもの。毎日、自分がなぜここ(代表)にいるのかということを証明しなければならない」と、選手に常に100%を出し切ることを求めた。それまで実績や年齢によって大きな差があった代表選手の日当も一律にした。
それまでのような短い練習期間では不十分だと考え、合宿期間を伸ばすことにしたが、その分の日当を払う余裕はなかった。正直に、「日当は十分に払えないけれど、目標を達成するために合宿期間を伸ばす」と事情を伝えた。
代表を去っていく選手もいる中、監督とともに目標を追いかけることを選んだ初期メンバーの中に、今夏の東京五輪でもチームを支えた5人、セッターのバンジャマン・トニウッティ、リベロのジェニア・グレベニコフ、ミドルブロッカーのニコラ・ルゴフ、アウトサイドのイアルバン・ヌガペトと監督の次男ケバン・ティリがいた。
練習方法も変え、試合形式の練習を大幅に増やした。メンバーを入れ替えながら試合形式の練習を繰り返し、勝ったチームの選手に2ポイント、負けたチームの選手には1ポイントを与え、毎日そのポイントのランキングを発表した。スパイク効果率などプレーの数値ではなく、チームの勝利のために動ける選手を評価するという意思表示だった。
「選手間でケンカがあったりバラバラの状態だったので、もっとも大事なのは、個々がどんな活躍をするかではなく、チームを勝たせることなんだと、示したかったんです」