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「全打席抑えられるわけがない」花巻東・佐々木麟太郎(1年生)、“新怪物”伝説の幕開け〈東北大会初優勝→いざ全国デビュー〉
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![田口元義](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/7/5/-/img_75003d1c8e96afbf93ce622c330de78e8574.jpg)
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2021/10/29 11:02
![「全打席抑えられるわけがない」花巻東・佐々木麟太郎(1年生)、“新怪物”伝説の幕開け〈東北大会初優勝→いざ全国デビュー〉<Number Web> photograph by Genki Taguchi](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/a/d/700/img_ad1e5e39f04b28c1c6d64bf62be21961171814.jpg)
花巻東の1年生・佐々木麟太郎が見舞った左中間最深部への逆方向のアーチは、観衆の度肝を抜くには十分だった――
近代日本の礎を築くこととなる幕臣、勝海舟の幼名を由来に名を授けた父が、厳しくも成長を促すように言う。息子もその意向を強く感じ取り、妥協なき日々を過ごす。
夏の悔しさ。
麟太郎がこの秋、強調していた言葉のひとつである。今年の夏。優勝候補の筆頭とされながら、花巻東は岩手大会決勝でライバルの盛岡大付に敗れた。そこから、自分の課題克服に精魂を込めてきたのだという。
“怪我”がバッティングを進化させた
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それが逆方向への打球の意識であり、東日本国際大昌平戦での本塁打は、修練の成果だった。麟太郎が自信を覗かせる。
「練習をしっかりしたことで、コース別に引っ張ったり、流したり打ち分けられて、結果にもしっかり繋がっているので。培ってきたものが活かされていると思います」
実はその背景には“怪我の功名”もあった。
秋の県大会決勝前の練習で右手薬指を骨折。爪もはがれてしまうような怪我だったが、バットは振れる。むしろ、スイング時に余計な力が入らないから好都合――監督の佐々木はそう実感したと明かす。
「決勝戦でもホームランを打ったんですけど、(右手薬指で)ほぼバットを握らずに打っていたので。力いっぱい握らずに振ることで、県大会が終わってから逆にホームランの数がどんどん増えていって。力が抜ける感覚がついたら、ファウルや打ち損じみたいな打球が少なくなるんじゃないかなって思いますけどね」
秋の県大会まで30本超え。そこからわずか1カ月で10本以上も上積みさせた。本塁打こそ最大の魅力であることは間違いない。だが、たとえ豪快な一発が出なくとも、相手ピッチャーの脅威となり、チームの呼び水となれる。麟太郎にはそんなスケール感がある。極端に表現すれば、バットを振らなくてもピッチャーにダメージを与えられるわけだ。
それを印象付けたのが、東北大会だった。
「アウトコースだけで抑えるのは無理」
「事実上の決勝戦」と目された、仙台育英との準々決勝。相手エース・斎藤蓉は、麟太郎に対し3打数1安打、1三振、1死球という内容だった。痛み分けのような対戦成績ながら、最速142キロ左腕は不満をあらわにした。