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「全打席抑えられるわけがない」花巻東・佐々木麟太郎(1年生)、“新怪物”伝説の幕開け〈東北大会初優勝→いざ全国デビュー〉
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2021/10/29 11:02
花巻東の1年生・佐々木麟太郎が見舞った左中間最深部への逆方向のアーチは、観衆の度肝を抜くには十分だった――
「ストレートに強いイメージがあったので、変化球でカウントを取りながら勝負できたとは思いますけど、あのデッドボールが……。いいバッターなので力を入れて投げようと思っていたんですけど、インコースにコントロールできなくて。あれが一番悔しかった」
斎藤が悔恨する「あのデッドボール」とは、0-3の6回、無死二、三塁で起こった。勝負にいったカウント2-2からの6球目が麟太郎の左手付近に直撃。そこからリズムを崩し、直後に追加点を奪われノックアウトされた。仙台育英からすれば、敗色が濃厚となった痛すぎる死球だったことになる。
東日本国際大昌平と仙台育英。両チームに共通していた麟太郎対策とは、インコースと変化球を効果的に使いながら打ち取ることであり、準決勝で花巻東のスラッガーと対峙した八戸工大一のエース・廣野風雅もそうだった。
「アウトコースだけで抑えるのは無理なんで、低めを意識させながらインコースを使って勝負できたと思っています」
この試合で麟太郎は、東北大会で唯一、無安打に終わった。そこには八戸工大一の割り切り、「勝負を避ける」という選択を恥じることなく採用したことも無関係ではない。
廣野は持ち味であるスライダーを武器に麟太郎を3打数無安打に抑えたが、2回に2点を献上したあとの2死一、三塁のピンチで申告敬遠。同点とした直後の7回裏には、先頭バッターながら明らかなボール球を初球から4球続け歩かせている。
「全打席抑えられるわけがない」
監督の長谷川菊雄にその狙いを尋ねると、潔いほどの最敬礼だった。
「非常に素晴らしいバッターですから。練習試合をさせてもらいましたけど、とてもじゃないが全打席抑えられるわけがない。バッテリーには前日から言っておいたんです。『無理に抑えにいこうとするなよ。すまないが、ランナーがいる時は俺の指示でやらせてくれ』と。1打席目はライトフライでしたけどすごい打球で、『入った』と思ったくらいでしたんでね、あの場面では申告敬遠にしました」
警戒され、勝負を避けられる。「チームの勝利に貢献するだけなんで」と、快打を飛ばしても凡打が続いても、打席での麟太郎は泰然自若を貫いてきた。