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「全打席抑えられるわけがない」花巻東・佐々木麟太郎(1年生)、“新怪物”伝説の幕開け〈東北大会初優勝→いざ全国デビュー〉
posted2021/10/29 11:02
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Genki Taguchi
バットとボールが衝突する。メジャーリーグ最多の通算762本塁打を誇るバリー・ボンズを見本とし、それを体現するかのように体を素早く回転させるフォロースルー。
球場の風はライトからレフト方向へ強く吹いていた。左バッターにとって不利な条件のなか、花巻東の1年生・佐々木麟太郎が見舞った左中間最深部への逆方向のアーチは、観衆の度肝を抜くには十分だった。
“驚愕の一発”に繋がった父・洋監督の助言
東日本国際大昌平との東北大会初戦。驚愕の一発が飛び出したのは、4回に集中攻撃で3点を挙げ、なおも2死二塁での場面だった。
「監督さんから『風が影響しているから、逆方向に強い当たりを打ちなさい』という言葉をいただいていました。センター方向にライナーを強く打とうという心構えで打席に入っていましたので、その延長線上でのホームランだと思っています」
183センチ、117キロ。その体躯は打席に立つだけで相手を威嚇しているようだ。
東日本国際大昌平のエース・鈴木飛呂夢は、外角やや高めの甘いストレートを投じてしまった自分を悔やんでいた。
「インコースを使いながらアウトローで勝負する配球だったんですけど、自分が低めに投げ切れなくて、甘いコースになって。そこを簡単に持っていかれました」
佐々木が放つ圧力に引き寄せられるように。敵将である伊藤博康の感覚からすれば、その失投はまるでエアポケットだった。
「鈴木の持ち味である、左バッターのひざ元に曲がるスライダーで攻めなさいと、そういう指示は出していたんですが。それが、あんな棒球を投げて。失投を逃さずに打った佐々木君は立派ですけど」
これが、佐々木が高校で放った通算47本目の本塁打となった。2015年に「スーパー1年生」として規格外の打棒を振るい、早稲田実時代に高校記録の通算111本を残した清宮幸太郎(日本ハム)でさえ、1年秋の時点では22本だった。単純に比較しただけでも、佐々木がどれだけ驚異的なペースでアーチを量産しているかがわかる。
「勝海舟」にちなんだ“麟太郎”の由来
新怪物。
この秋、その呼び名が定着した。
佐々木は、高校に入学して間もない春の大会からスタメンに名を連ねていた。恵まれた肉体。佐々木洋監督の長男という出自も相まって、デビューから周囲の興味が注がれる。
「まあ、まだまだ調子も上がったり、下がったりしているので、そういうところがまだ、幼さがあるのかな、と思いますけどね」