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「日本はまだメッシやサラーを買えるに至っていないが…」オシムが語る欧州サッカーの新潮流と日本の可能性とは
posted2021/09/23 06:01
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Getty Images
イビチャ・オシムに話を聞いたのは、ヨーロッパのメルカートがあと数日で締め切られる8月下旬だった。リオネル・メッシのパリ・サンジェルマン移籍に伴う大騒ぎは一段落し、クリスティアーノ・ロナウドのマンチェスター・ユナイテッドへの電撃移籍はまだ発表されていない。そんなときだった。
テーマはヨーロッパの新シーズン開幕に向けての展望をオシムに語ってもらうことだったが、彼が各国リーグやCLについて詳細に分析するとは思えない。はたしてどんな言葉が彼の口から出てくるのか、まったく予想がつかなかった。実際、オシムが語ったのは、ピッチという小さな枠を超えたより大きなテーマ――今日の欧州サッカーが向かっている方向であり、さらに大きなサッカーと社会との関連――サッカー選手やサッカー界は社会的な問題とどう関わっていくか、ポジティブに関わること、自分たちの日々の活動と関連づけていくことが、ひいてはサッカーの進歩にもなっていくということであった。
莫大な資金が流入し、膨れるだけ膨れあがったヨーロッパ市場も、そのネガティブな面ばかりを批判するのではなく(私の印象では、オシムはビッグマネーの流入に対してはこれまでほぼ一貫して否定的であった)、ポジティブな面を肯定しながらサッカーの新たな可能性を探っていく。同様に日本にはどんな可能性があるのかを語ることも彼は忘れてはいない。
オシムとの電話インタビューを前後2回に分けて掲載する。何をどう考えればいいのか。問題を適切に立てられれば、あとはロジカルに思考を深めていけば結論は得られる。オシムの言葉は常に示唆に溢れている。(全2回の1回目/#2はこちら)
歓迎すべきサッカー界の均質化
――元気ですか?
「君らはどうなんだ。元気なのか?」
――ええ、悪くはないです。
「われわれも同じような表現を使う。元気ですか。ええ元気です。誰もが挨拶にかわす言葉だが、実際にどうかは別にしてみな無難に答える。自分は元気だと。あるいは元気で良かったと。
それで君は私に何を聞きたいのか?」