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大坂なおみを「いじめるな」 アメリカで人種やメンタル・ヘルスの問題は今…インディアンスは名称変更するがトマホーク・チョップは? 

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ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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posted2021/09/01 06:01

大坂なおみを「いじめるな」 アメリカで人種やメンタル・ヘルスの問題は今…インディアンスは名称変更するがトマホーク・チョップは?<Number Web> photograph by Getty Images

(左)亡くなった7人の名前を記したマスクを着用した大坂なおみ、(右)ブレーブスの応援として行われる「トマホーク・チョップ」

大坂「私のバックグラウンドも関係している」

 件のベテラン記者がどう考えて大坂選手に質問したのかは知らないが、あとで会見の音声を聞いた時、大坂選手の答えがとても率直だったことに驚いた。

「私はもっと若い頃からメディアに注目され続けてきた。それには自分のバックグラウンドも関係していると思う。私のツイートや発言が注目されることについて、私はどうすることもできない。その両方のバランスの取り方がまだよく分からない。記者のみなさんと同じように、それを理解しようとしている段階だと思う」(大坂なおみ)

 たとえ明確な答えがなくても、自分が思ったことを包み隠さず話す彼女の姿を見て、すぐさま思い出したのが、Netflix(ネットフリックス=定額制動画配信サービス)の「Naomi Osaka」(ギャレット・ブラッドリー監督)の1シーンだった。

 同番組は彼女が初めて全米オープン王者になった2018年から、2度目の王者になった2020年までの軌跡を追ったドキュメンタリーの秀作で、昨春以来のBlack Lives Matter(以下BLM)関連の言動や、事故で急逝したNBAの元スーパースター、コービー・ブライアントの影響、不振脱出のために心身共に格闘する姿などが淡々と描かれていた。

 思い出したシーンとは、2020年の全米オープンで優勝した際、当時のBLMの原動力となった警官による黒人への暴力事件で亡くなった7人の名前を記したマスクを着用していたことについて、大坂選手がインタビューに答えた場面だ。

「7試合…7つのマスク…7人の名前。ナオミ、あなたはどんなメッセージを届けたかったのですか?」

 大坂選手はいつものように静かに話しながらも、最後にインタビュアーを真っ直ぐに見つめて、こう答えた。

「それはむしろ、『あなたに届いたメッセージはなんですか?』という問いだと思います」

「メンタル・ヘルス」問題には多くのアスリートが提言

 他の誰かではなく、まず自分に問いかけること。それは昨年来のBLMにおける一貫した姿勢だろう。それは政治家やいろんな団体の指導者から発信されたことではなく、世界中の人々が自ら発信した「問題提起」でもある。そして、その人々の中にはバスケットボールやゴルフ、サッカーやレーシング・ドライバーなど、世界中の多種多彩なアスリートたちが含まれていた。彼らは自身のツイッターやインスタグラムなどのSNSを通じて「自分の声」を届けることで、社会的な運動の輪を広げていったのだ。

 それはたとえば、大坂選手が「メンタル・ヘルス」への影響を理由に全仏オープンの会見を拒否した時も同じだった。会見をテニス選手の義務と批判する人々もいたが、プロ・ゴルファーのロリー・マキロイやNBAのステフィン・カリー、F1王者のルイス・ハミルトン、女子体操のシモーネ・バイルズらが異口同音に、大坂選手の言動に理解を示した。それは彼らもそれぞれの理由で、試合後の会見に疑問を持っていた証だった。

「彼女はメンタル・ヘルスについて率直に話をしている。アスリートがメンタル・ヘルスを優先させることはとても重要だと思う。どんなスポーツであれ、最終的にはそれがパフォーマンスや試合の結果を決定づけるもの。こうしてこれ(メンタル・ヘルス)が大きな話題になって、とても助けになっている。私たちはアスリートで技術がモノを言うわけだけれど、その前に私たちは人間でもあるのですから」(バイルズ)

【次ページ】 「インディアンス」の名称変更をどう考えるか

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