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大坂なおみを「いじめるな」 アメリカで人種やメンタル・ヘルスの問題は今…インディアンスは名称変更するがトマホーク・チョップは?
posted2021/09/01 06:01
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Getty Images
8月半ば、レッズの秋山翔吾外野手の取材でシンシナティに滞在している間、女子テニスの大坂なおみ選手が現地での大会に出場していた。
残念ながら、テニスの現場を取材する余裕はなく、野球の現場でその名を聞くこともないだろうと思っていたのだが、若い地元記者から「ナオミの記者会見、どう思った?」と訊かれた。何も知らなかったので、正直に「何かあった?」と尋ねると、彼はこう説明してくれた。
「(地元の)ベテラン記者がナオミに『メディアに取り上げられる恩恵を受けているのに、メディアと話すのが好きじゃない(筆者注:この部分は訳し方次第で解釈の仕方が多少、変わるかも知れない)』って指摘して、ナオミを困らせたらしい」
大坂選手と会見をめぐる、米メディアの意見
今年の全仏オープン開幕直前、「選手の精神状態が軽視されている」と訴えて、試合後の記者会見に出席しないと宣言したのは知っていた。主催者から「選手の義務を怠った」として1万5000ドル(約165万円)もの罰金を科され、二回戦を前に大会を棄権し、2018年の全米オープン以降、うつ状態に悩まされていた事実を告白したのも知っていた。
それでも若手記者には「よく分からない」とだけ答え、その場をやり過ごしたつもりだった。ところがそれから間もなくして、自分の周りにいる「普段はあまりスポーツに興味がない人たち」が、テキストやらメールやらで次々と同じように問いかけてきた。
「あの質問はナオミに対する嫌がらせだと思う。あなたはどう思いますか?」
どう思いますか? その問いかけはどこか批判的な感じがした。英語のSNSでも「メディアはナオミをイジメるのを今すぐやめろ」というような声が多かった。英語圏のメディアの中にも「いつもテニスを取材しているメディアがナオミの意向を尊重してきたのに、地元メディアの配慮のないひとことで台無しになる」などと訴えた人がいた。
圧倒的多数の人々が「思慮に欠ける質問だ」と批判すれば同調したくなるし、「俺はその記者とは違う」と言いたくなる。それでもまだ、「よく分からない」という気持ちだった。その理由はきっと自分もその「メディア」の一員で、「だったら、お前はいつもアスリートに思慮深く質問しているのか?」と自問することになるのが分かっていたからだ。
メンタル・ヘルスや会見拒否について、アスリートに質問した記憶はないが、自分が何気なく質問したことで、アスリートに不快な思いをさせたことがないとは言い切れない。我々はいつだって、試合に敗れた責任、勝てなかった責任、相手打者に打たれた理由を問い、相手の投手から打てなかった理由をアスリートに問い続けている。過大な期待をかけたり、重圧をかけるような書き方をしたことだってあるだろう。