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失われた「なんとかなる」という伝統…無策のまま散ったドイツの悲しい現実と「レーブ後」への期待
posted2021/07/08 17:00
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
ユルゲン・クリンスマンのアシスタントコーチとして2年間、監督としては15年の歳月をドイツ代表に費やしてきたヨアヒム・レーブの時計の針が止まるときがきた。
EURO2020のグループリーグを2位で突破したドイツは、決勝トーナメント1回戦で宿敵イングランドと対戦した。
新型コロナウイルスのデルタ株感染が急増しているイングランドへの入国許可は下りず、ウェンブリースタジアムでの決戦に駆け付けたのは現地在住のドイツ人のみ。4万5000人の観衆のうちドイツファンは約2000人と、完全アウェーでの一戦となった。
なぜか最後には勝っている。そんな時代があった
前半から我慢比べの展開となったが、75分にラヒーム・スターリング、86分にハリー・ケインにゴールを許し、0-2のまま試合終了。ケインのゴールが決まった際には、テレビ実況が思わず「試合は決まってしまいました」とコメントしたほどだ。
すぐに「今の発言は取り消します。私たちは昨日、サッカーは数分で流れが変わるのを目の当たりにしたではないですか」と気を取り直したが、そこから試合終了まで何かが起こりそうな雰囲気はなく、クロアチアやスイスが見せた土壇場での逆襲劇は、この日のシナリオにはなかった。
大会後の監督辞任を発表していたレーブのために、選手たちは一丸となっていたはずだ。レーブも大会前の合宿の雰囲気を称賛し、その手応えを何度も記者会見で話していた。ポルトガル戦で見せた小気味いいサッカーは素晴らしかったし、堅守のハンガリー相手に終盤に同点に追いついたのも、簡単なことではなかった。
それでもレーブも、選手たちも、ドイツ代表が伝統的に備える「なんとかなるはずだ」という雰囲気を発揮できないまま、大会を去ることになってしまった。
試合運びが悪くても、相手に試合を支配されても、なぜか最後には勝っている。そんな時代がドイツにはあった。
自分たちのミスでチャンスを作られても、ゴールだけは許さない。致命的な大ピンチも、GKのファインセーブや守備陣の決死のブロックで、相手のシュートは枠を外れていく。あるいは押し込まれていても粘り強く凌ぎ、セットプレーやカウンターからワンチャンスをモノにする。チームとしての決まり事はあるけど、最後の局面では個々が最適な判断で対処する。そうした積み重ねが、ドイツの「自分たちはやられない」という信念になっていた。
しかし、最近のドイツは常にジレンマと戦い続けてきた。「なんとかなる」ではなく、「こんなはずではない」が起こってしまう。そのせいだからだろうか、慎重になりすぎていると感じることが多かった。