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失われた「なんとかなる」という伝統…無策のまま散ったドイツの悲しい現実と「レーブ後」への期待
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/07/08 17:00
決定機を外し、天を仰ぐミュラー。イングランドに完敗を喫したドイツは早々に大会を去ることとなった
将来へ向けての土台を作るべき大会だった
2014年に世界王者になって以降、ドイツは明らかに下降線をたどっている。しかし、それはどんな国でも通らなければならない道かもしれない。いかなる強豪国でも、崖から転げ落ち、もがき苦しんで、新たなチームを作っているのだ。フランスも、オランダも、ポルトガルも、イングランドも、今大会好調のイタリアでさえ、この20年間を振り返れば、ワールドカップやEUROで結果を出せないどころか、予選敗退を喫した時期だってある。
クラブチームのスケジュールがどんどん過密になり、そこでの活動が優先される昨今、代表のチーム作りはこれまで以上に難しいものになってきているのも確かだ。
ドイツメディアは「ビッグトーナメントでの目標は常に優勝」と言っているが、今回は高望みすべきではなかっただろう。将来へ向けての土台を作るべき大会だった。だからこそ、世代交代を進めようとしたレーブだが、新型コロナウイルスの影響で思うようにチーム作りができなかった。そこに対する悔いは残しているかもしれない。
レーブが代表監督として指揮したのは、実に198試合を数える。キャプテンのマヌエル・ノイアーは「監督は……素晴らしい人間だ。こんな最後になってしまって本当に残念だし、とても悲しい。感謝の思いでいっぱいだ」と試合後に言葉を絞り出していた。
レーブは最後まで選手たちを信頼し、期待して、たとえうまくいかなくても守り続けようとした。イングランド戦後のテレビインタビューでは「ドイツにはポテンシャルのある若手がいる。彼らは今回の大会からいろいろ学び、それを生かしてくれるだろう。母国開催となる24年のEUROでトップレベルのチームができるはずだ」とエールを送っていた。
今後、ドイツ代表はハンジ・フリック新監督のもとで新時代に入る。U-21EUROの優勝メンバーも台頭してくるだろう。戦い方も、チーム作りも大きく変わってくることが予想される。来年のカタールW杯までには時間が足りないかもしれないが、地元で開催されるEURO2024では「あの大会で多くを学んで成長した」と今大会を振り返る選手たちが中心となり、優勝を狙えるチームとなってほしい。
最後にレーブ監督には「本当にお疲れさまでした」と言いたい。今後しばらくはストレスを感じることなく、SCフライブルクの新スタジアムでの試合を楽しんだり、フライブルクの街にある馴染みのカフェで、ゆっくりとくつろいでいただきたい。