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「エースは黒後」中田久美監督も期待する黒後愛の“爆発” 恩師が明かす、まだ発揮しきれていない“稀有な才能”とは?
posted2021/07/05 17:00
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
FIVB
6月30日、東京五輪に出場する女子バレー日本代表12名の選手が発表された。
1年の延期によって引退を決断した選手、ケガで夢を諦めた選手がいれば、反対にこの1年という時間があったからこそ、この場に立つことができた選手もいる。2017年の就任以来、50名にも及ぶ選考を行ってきた中田久美監督は「毎シーズン全力で、女子バレーのために、自分の夢を叶えるために頑張ってくれた」と選手たちに対して時折、言葉を詰まらせながら感謝を述べた。
伝説に残るチームをつくりあげるために、覚悟を決めて選んだ12名――その中で中田監督が「エース」として名を挙げたのが黒後愛だった。
日本の女子バレーで「エース」と呼ばれるのは、常にアウトサイドヒッターのレフトに入る選手だった。遡れば木村沙織がそれに当たり、東京五輪に出場する現在のチームで言えば古賀紗理那や石川真佑。実際、4位で終えたネーションズリーグでチーム最多得点を挙げたのは古賀だった。
対して黒後は、日本では“大型”に分類されるアウトサイドヒッター。パワーは申し分ないが、打数も得点数も目をひくほどに多いわけではない。そのため「エース」や「得点源」という言葉がやや独り歩きしている感も否めない。
だが、それでも中田監督が「エース」に黒後を指名するのには、もちろん理由がある。
窮屈そうなプレーが続いた黒後
「スイッチが入った時の打力、読み、スピードは外国選手に全く引けを取らないものがある。オリンピック本番でもスイッチの入った黒後に期待しています」
東レ・アローズが久光製薬(現・久光)スプリングスと優勝を争った2018-19シーズンのVリーグファイナルでは、負けたら終わりという状況で黒後はとにかく打ちまくった。あの時の攻撃力、爆発力は群を抜いており、シーズン終盤の疲労が蓄積した状態であることを忘れさせるほど、スパイク音が心地よく響いていた。
さらに遡るならば下北沢成徳高校時代。春高やインターハイの舞台でも光っていたのが、相手の上から叩き落とすのではなく、ブロックに当てて弾き飛ばす豪快なスパイク。どちらかと言えば、ブロックの間やブロッカーとレシーバーの間をきれいに抜く技で勝負する選手が多い日本女子の中で、黒後のパワーは圧倒的だった。近い将来を描くだけでワクワクした。
だが、それほどの素質を持っているにもかかわらず、最近の黒後はなんだか窮屈に見えてならない。「ワクワクする」ではなく、「ワクワクした」と過去形にしてしまうように。