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「エースは黒後」中田久美監督も期待する黒後愛の“爆発” 恩師が明かす、まだ発揮しきれていない“稀有な才能”とは?
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byFIVB
posted2021/07/05 17:00
ネーションズリーグで確かな手応えを得た黒後愛。中田監督がエースに指名するなど、東京五輪でも活躍が期待される
なぜ、そう感じるのか。
高校時代の恩師・小川良樹監督は黒後が持つ素質と、それが活かされていない現状をこう分析する。
「愛も真佑も、高校に入って来た時から力の出し方がずば抜けてうまくて、トレーナーも感心するほどでした。入学当初は速いトスを打つのが得意でしたが、それではせっかくのパワーを活かしきれない。だから彼女の将来を見据えて高校時代は高いトスを思いきり打って、ブロックに当ててバーンと飛ばすスパイクを打たせてきたんです。
でも今はそういう攻撃ができていないですよね。チーム全体で速い攻撃をベースにするせいか、ネーションズリーグを見ていてもすごく中途半端。もう少し(ネットから)離して、相手のブロックよりも高い位置に来れば、愛には飛ばせる力があるのに、ふわっとしたトスではなく、ピュッと出てくる速いトスを打たないといけないから幅も限られる。籾井(あき)さんはパス力があるので、高いトスも上げられるセッターですから、速さ一辺倒でなくてもいいんじゃないか。愛のパワーが活かされないのは、少しもったいない気がします」
黒後が入るセッターの対角のポジションはオポジットとも称され、男子では西田有志や清水邦広といった攻撃専門の選手が入る。女子でもセルビアやイタリア、ブラジルら強豪国は、同様に攻撃力に長けた大型選手が入り、攻撃の柱になるケースが多い。
無理に速く、小さくしなくても
では、日本はどうか。
リオデジャネイロ五輪では木村や石井優希と共に攻撃の軸となったサウスポーの長岡望悠がその役目を担ったが、18年世界選手権や19年ワールドカップでこの位置に入ったのは、器用な新鍋理沙だった。日本代表のみならず、Vリーグでも外国人選手をオポジットに配置するチーム以外は比較的小柄で守備力にも長ける技巧派の選手の起用が目立つ。
まさにこれこそが日本女子が突破するべき課題であり、小川監督が高校時代から黒後をセッターの対角でプレーさせてきた理由でもあった。
「相手に目を向ければ世界の大エースたちとマッチアップしなければならないポジションです。新鍋さんのようにつなぎが上手で守備もできる、速いトスが打てる選手が入るのは大きな武器だけれど、ブロックは低くなる。
崩れた時に大きく上がって来たトスを、前衛もバックアタックも対角線上に強く打てる、しかもブロックが来ても飛ばせる。そういう選手が絶対に必要で、それができるのが愛だと思ったので、将来を見据えて(オポジットに)入れてきました。どうしても相手が大きいと、速さでかわさなきゃと思われがちですが、愛も真佑も相手が大きかろうとしっかり打って飛ばせる選手ですから、無理に速く、小さくしなくても、十分世界と渡り合えるはずです」(小川監督)