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「エースは黒後」中田久美監督も期待する黒後愛の“爆発” 恩師が明かす、まだ発揮しきれていない“稀有な才能”とは?
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byFIVB
posted2021/07/05 17:00
ネーションズリーグで確かな手応えを得た黒後愛。中田監督がエースに指名するなど、東京五輪でも活躍が期待される
加えて、黒後のもう1つの課題を「コミュニケーション力」と教えてくれたのは東レの越谷章監督だ。
黒後が入団当時からコーチを務めてきた越谷監督は、「女子選手であれだけ叩ける選手はいない」というバックアタックや、女子選手が不得手とするオーバーハンドでのサーブレシーブを高く評価する。だがその一方で「決めたい、自分が決める、と前のめりになりすぎて、決まらなくなると周囲に対しても壁をつくってしまう」と、感情の起伏が激しいことを指摘する。
日本代表でも自らの感情表現ができず、どんなトスが打ちたい、私はこうしたい、と意思表示ができていないのではないか。同じく懸念するのは、黒後の2歳上で東レの副主将を務める白井美沙紀だ。チームの“元気担当”と黒後から信頼を寄せられるセッターは続ける。
「愛はすごく繊細で実は人と関わるのが苦手。しかも自分の言葉が強いのをわかっているから、(昨季)キャプテンになってからは周りに気を配るようになりすぎて、言いたいことも飲み込むようになったんです。もっと周りに言っていいんだよ、と伝えたら、本人の中には“リトル黒後”が3人ぐらいいるらしく、『言葉にする前に“リトル黒後”と会話してから言うんです』って。冗談みたいだけど、愛の中では相当我慢しているんだと思います」
リトル本田ならぬ、リトル黒後。サッカーの本田圭佑はイタリアの強豪・ACミランへの移籍を実現させるために自分自身の心にいる“もう1人の自分”と前向きな対話をしたというが、黒後の場合は言いたいことを押し殺すための防御だった。
「強さと脆さが行ったり来たりして、うまくいかないと壁をつくってしまいがち。でも、たとえうまくいかなくたって、もっと感情を前面に出して『私がやってやる!』ぐらいの強さを出せばいいと思うし、周囲の選手たちも愛に変に気遣うことなく、どんどんコミュニケーションを取って、どうしたいのか引き出せばいいんじゃないかな、って。愛には自分とチームを信じて、出し惜しみせずに爆発させてほしいです」
小さくまとまってしまわないかと案じる恩師やチームメイトの思いが少し通じたのかもしれない。東京五輪まで20日を切ったいま、黒後に変化が現れている。