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「人間的にすごく成長できている」ダルビッシュ有がシカゴで味わった地獄と天国…メジャー最速1500奪三振までの心の変遷 

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木崎英夫

木崎英夫Hideo Kizaki

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photograph byAP/AFLO

posted2021/06/30 11:03

「人間的にすごく成長できている」ダルビッシュ有がシカゴで味わった地獄と天国…メジャー最速1500奪三振までの心の変遷<Number Web> photograph by AP/AFLO

ランディ・ジョンソンの記録を抜き、歴代最速で1500奪三振を達成したダルビッシュ有

「彼には、将来メジャーリーガーになる夢があるようです。マイナーからレベルアップをしてやっていかなければならないことを思うと、この場で目にしていることが当たり前に映っては困るんです。だから、中に入れるのをやめました」

 チームによってルールに多少の違いはあるが、メジャーでは、伝統的に家族をクラブハウスに連れてくることが許可されている。担当スタッフが何かと気を遣ってくれる場で、選手の息子たちが戯れる姿は見慣れた光景だ。一方、夢舞台への昇格を目指し薄給に甘んじるマイナー選手たちの環境は全ての面において、メジャーとは格差がある。

 あの日、決然とその空間を遮断したダルビッシュが見せたのは、父親の顔だった。

シカゴで経験した地獄と天国

 古巣カブスを相手に移籍後初の登板となった9日、本拠地ペトコ・パークのまっさらなマウンドに向かうダルビッシュは、久しぶりに流れる登場曲に背中を押された。日本のヒップボーカルグループ、GReeeeNの『道』が音響担当者に渡されていた。

「僕がカブスですごくつらいときに使い始めたので、その時を思い出しました」

 右肘を故障しシーズン序盤で離脱したカブス初年の18年から、制球難に苦しんだ19年の前半をダルビッシュは「地獄」と振り返る。一時期、右肘横の辺りに違和感を覚え、筋肉の凝りの解消法を模索していた。ある時、ロッカーに置いたジュラルミンケースから、先端にゴム製のカートリッジを取り付けた大きなドリルを取り出し「秘密兵器です!」と笑みをこぼした。重厚なドリルが凝りをほぐす逸品になったようだ。明日を信じ、万策を尽くしていた姿が記憶に新しい。

 ダルビッシュは、19年の後半からを「天国」と呼ぶ。同年8月21日のジャイアンツ戦で、史上初の「5戦連続無四球&8奪三振以上」を記録。そして、コロナ禍で60試合制に短縮された昨季に8勝を挙げ、日本投手初の最多賞を手にした。“風吹きすさぶ街”シカゴで、何ものにも代えがたい経験を積んだ。

【次ページ】 ど真ん中を狙う「カッター」

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ダルビッシュ有
サンディエゴ・パドレス
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