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福島の公立進学校“御三家”は聖光学院を倒せるか? 楽しみな2人のエースが登場…国立大→プロを目指す大型左腕も
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2021/06/04 17:15
佐藤綾哉は、昨年、21世紀枠で46年ぶりのセンバツ代表校となった磐城で、2年生投手としてベンチ入りメンバーに選ばれた
沖が甲子園のマウンドで伝えたメッセージ。「万全でなくとも投げ切る」ことを実現するために、佐藤が選んだ変化はギアチェンジだ。ランナーがいない場面では力を抑えて投げ、失点が許されないピンチでは一段階ギアを上げて力でねじ伏せる。この新たな形に好感触を抱けたのが春季大会だった。
初戦の福島商戦で、県内屈指の強力打線と評判の相手を6奪三振1四球、1失点に抑える完投を演じた。歩みが正しかったと言わんばかりに、佐藤が頷く。
「ストレートで空振りが奪えましたし、当てられてもフライが多かった。『自分のボールが通用するんだ』って、自信が持てるきっかけになりましたし、自分を大きくさせてくれた試合でもありました」
そして、佐藤の投球スタイルが前年秋とは別物だと、はっきりと知らしめたのが準決勝の聖光学院戦である。
まだ進化の過程「力投派を捨てたわけじゃないですから」
失点は初回の犠牲フライでの1点のみ。スライダー、チェンジアップ、カーブと変化球で相手打者をかわしながら、得点圏に走者を置いた6回と7回には、ギアを上げたストレートで後続を断ち切った。試合には敗れたものの、春を制した聖光学院相手に8回112球、4安打1四球にまとめたパフォーマンスに、磐城の渡辺純監督も「いつもこのレベルを目指してもらいたい」と、納得の表情を見せた。
「『力を抜いて投げろ』とずっと言ってきたなかで、この試合は力の配分をコントロールできていたというか、持ち味を出して抑えてくれました。できすぎです」
準決勝の翌日に行われた、東日本国際大昌平戦との3位決定戦にも先発した佐藤は、7回11安打、4失点で再び敗戦投手となった。それでも、「疲労が残っている状態で投げて打たれたことも、夏に向けていい経験でした」と、現実を前向きに受け止めている。
モデルチェンジを印象付けた春とはいえ、磐城のエースはまだ進化の過程だと伝えたげに、不敵な笑みを浮かべる。口元とは裏腹に、切れ長の目の奥は、鋭く光っていた。
「力投派を捨てたわけじゃないですから」
【安積高校】小関達陽(3年・左投左打)
もうひとりの「御三家エース」、安積の小関達陽は、そんな磐城の意識の高さに日々、刺激を受けているという。