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大阪桐蔭はやっぱり技巧派サウスポーが苦手?「137キロ」が速く見える智弁学園・西村王雅の巧みな投球術
posted2021/03/25 06:01
text by
西尾典文Norifumi Nishio
photograph by
Sankei Shimbun
センバツで「1回戦最大の注目カード」と言われていた大阪桐蔭と智弁学園の対戦は、智弁学園が粘る大阪桐蔭を8対6で振り切り、昨秋の近畿大会決勝に続いて勝利をおさめた。
大阪桐蔭は、松浦慶斗と関戸康介という左右の2枚看板が大きく崩れ、さらには王者らしからぬ守備のミスが目立った。しかし、大阪桐蔭が苦戦した要因として、智弁学園の先発左腕・西村王雅(おうが)の好投が挙げられるだろう。
大阪桐蔭の先発・松浦が立ち上がりに苦しんでいきなり4失点を喫したのとは対照的に、西村は3回までパーフェクトピッチングを披露。完全試合の夢は4回で途絶えたものの、5回までは1安打、2四球とほとんど相手打線に仕事をさせなかった。
大会前の3月16日、筆者は『大阪桐蔭が春に負けた“6校”の共通点…16年はドラ1早川隆久が攻略、カギは技巧派サウスポー?』という記事を公開した。これまで大阪桐蔭がセンバツで敗れた6試合のうちに、4試合に技巧派左腕が登板していた。西村を前に初戦敗退を喫した今大会も、この傾向は当てはまったと言えるのではないだろうか。
ただこの記事では、大阪桐蔭が過去の甲子園“初戦”で圧倒的な強さを示していたこともあって、2回戦以降のサウスポーを紹介している。大会屈指の左腕でありながら西村については触れていない。試合を見ながらこの記事のことを思い返して、思わず申し訳ない気持ちになった。
そのお詫びというわけではないが、改めて西村が大阪桐蔭打線を抑え込めた理由について検証してみたいと思う。
「右の外、左の内」セオリーとは逆
まず有効だと感じたのがセオリーとは逆パターンとも言える配球だ。
左投手の場合、基本となるのは右打者なら内角、左打者なら外角のクロスファイヤーと言われるボールを軸とした組み立てだ。西村も172cmと上背はないものの、わずかに一塁側に右足を踏み出し、そこから鋭く体を回転させて投げ込むクロスファイヤーにはいかにもサウスポーらしい角度がある。
しかし、右から左へのいわゆる浜風が強い甲子園では、右打者に対して内を狙ったボールがわずかに真ん中よりに入るとレフトスタンドへ運ばれる危険性が高い。左打者の外のボールも合わせたような当たりがレフト線で伸びるというのもよくある。それを意識してかどうかは分からないが、この日の西村は速いボールは右打者の外、左打者の内という攻め方を徹底して行っていたように見えた。
秋の近畿大会では目立っていた高めに抜けるボールがこの日は非常に少なく、その攻め方を可能にした制球力があったということも大きかっただろう。